巻物

□トレジャーと歴史の姫
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“いいだろう その代わり、少しでも妙な真似をしたその時は命がないと思え”


「・・・判った」

水神との交渉が成立し、ヴィンセントはホッとする。

「・・・まさかとは思うが、骸骨になってるなんて言うまい?」


“当たり前だ 主は今でも生きている”


だといいがな、というのはヴィンセントの心の中で呟かれた。







しばらくして、水神は美しい装飾が施されたサファイアで造られていると思われる棺桶を引き上げて来た。
主はともかくとして、この棺桶は中々の値打ちがあるのではないかとヴィンセントは内心思う。

「・・・この中に?」


“そうだ”


ヴィンセントが棺桶に手をつけようとした。が・・・

バチバチバチッ!!

瞬間、電撃が発生して反射的に手を離す。
すると、棺桶の表面に見たことのない奇妙な文字が浮かび上がってきた。

「・・・これは?」


“結界だ その文字が読めん限り結界は解けん”


水神の声はどこか嬉しそうだった。


“残念だったな その文字は特殊な文字だ 解読書には決して載っていない 貴様の知識を活用しても―――”


「たい・・・よう、の国・・・」


“何!?”


解読書では絶対に解読出来ない文字で、どんなに知識があっても解読できない文字をヴィンセントは容易く解読し始めた。
自分でも何故、解読ができるのか判らなかったが、ヴィンセントは続けた。

「滅ぶ・・・が、沈まぬ・・・太陽の子、月となりて、ここに眠る・・・目覚めし時、が平穏な時であらんことを・・・」


全てを読み終え、棺桶がぼおっと光に包まれる。

「・・・これは?」


“繋げて読め”


水神に促され、ヴィンセントは繋げて読む。

「太陽の国滅ぶが沈まぬ 太陽の子、月となりてここに眠る 目覚めし時が平穏な時であらんことを」

全てを繋げて読み上げると、棺桶は強く眩い光を放った。
あまりの眩しさにヴィンセントは一瞬目を瞑った。


少しの間をおいて、ヴィンセントは目を開いた。
棺桶の表面に浮かび上がっていた奇妙な文字は―――消えていた。


“結界は解けた”


「・・・なら」

ヴィンセントはためわらず、棺桶の蓋を開けた。
そこには・・・

「・・・!!この子は・・・」

やや薄めの水色のドレスを着た十代くらいの漆黒の髪に真珠のような白い肌をした少女が胸のところで手を重ねて眠っていた。
よく見れば、少女の下には沢山の花が敷き詰められており、クッションの役目をしているように見える。


“おお、我が主よ 五百年もの間ずっと合間見えることを待ち望んでいたぞ”


水神の目が懐かしさの為に細められる。

「・・・五百年ということは・・・この子が・・・?」


“そうだ 伝説の国・ウータイの姫にして水竜の巫女 ユフィ=キサラギがその人だ”


「!!!」

ヴィンセントは驚くしかなかった。
歴史上、五百年前に滅んだウータイ。
その国の王には一人の娘がいたらしいが、どの本を読んでもその消息については書かれていなかったのだ。
ある説では、元々いなかったのかもしれないと噂されていたが、まさか本当にいたとは・・・。
しかも、それがこんな十代くらいの少女だったなんて・・・。


「ん・・・う、ん・・・」

少女が―――ユフィが身動ぎをした。


“主よ どうか目覚めてくれ”


水神が呼びかける。
それに応えるようにしてユフィが目を開いた。

「・・・ここ、は・・・?」

開かれたユフィの瞳は髪と同様、漆黒で黒曜石のように美しい瞳をしていた。

「・・・だ・・・れ・・・?」

ユフィの漆黒の瞳がヴィンセントを捉える。

「・・・私は・・・」
「キレイな・・・目。宝石みたい」

真珠のような白い手がヴィンセントの頬に添えられる。



その手はとても温かだった。
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