book1
□離れられない熱
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「咲夜、熱いわ。」
ひんやりと冷えた湖畔の夜にお嬢様は言った。
見てみれば、いつも涼しげなお嬢様の頬がほんのりと紅潮している。
「熱がおありになるのでは・・・?」
額に手を当ててみると、高まった熱が伝わり、苦しげな呼吸も聞こえてきた。
「お嬢様、お休みになられた方がお体のためです。」
主人を気遣って咲夜はレミリアを寝室へと連れて行く。
レミリアもそうね、と言ってそのまま咲夜に手を引かれベッドへと素直に潜っていった。
「何かあればすぐにお申し付け下さい。水分だけはこまめにとって下さいね。」
「ありがとう。下がっていいわ。」
「はい。おやすみなさいませ。」
パタン、とレミリアの寝室の扉を閉じた後、咲夜は溜息をついた。
お嬢様は時折、こうして熱を出されてお休みになる。
主人の辛そうな姿に、一介の従者の気持ちが沈む。
それでも明日にはまたお嬢様の元気な姿を見られることを願って、咲夜はレミリアの寝室の前から歩き出した。
翌日、レミリアの着替えを持って、咲夜は寝室に入った。
「お嬢様、気分は如何ですか。」
咲夜の呼び声の後、もそもそと布団が動き出した。
そしてレミリアは顔を半分だけ覗かせる。
「良くないわ。」
レミリアの声を聞いて、咲夜の願いは叶わなかったことを知る。
その声は掠れがすれに弱々しいものだったからだ。
頬の色味もまた、昨日より強まった様に見える。
咲夜は少し不安になった。
レミリアが度々熱を出すことがあっても、翌日にはいつも涼しげな顔をしていた。
しかしここで従者が取り乱してはならないと、まずは今すべきことを考え、汗をかいたお嬢様のお召し物の着替えに取り掛かった。