book1
□最後はあなたの意志で
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空気を含んだ長袖のシャツが、魔理沙の腕をぱたぱたと叩いた。
帽子で頭が蒸れることもなくなり、すっかりと季節は秋である。
空から見下ろせば、眩しいほどの緑だった木々の色が、黄色や赤の暖色系に乗っ取られつつある様子を伺うことが出来た。
――けほ。
軽い咳が出て、魔理沙は乾燥した喉に気付く。
その後喉を潤わせるために、もう二、三回意図的に咳き込んだ。
しかしそれはその場しのぎの対処に過ぎない。
水分補給をしなければならないなと、魔理沙は秋の森にぽっかりと浮かぶ白い洋館を目指すことにした。
――コツコツコツ。
背後の窓ガラスが叩かれる音を聞いて、アリスは手を休めた。
そして一度瞼を閉じて、視界を馴染ませる。
幾度となく聞いたこの音に確信を持ち、アリスは窓の方へ歩いていった。
「よう。遊びに来たぜ!」
いつも通りの屈託のない笑顔に、アリスは溜息をつく。
「ちゃんと玄関から入ってくることは出来ないの? 」
「アリスが出迎える手間を省いてやってるんだぜ? 感謝して欲しいくらいだけどなぁ」
――よっ。
魔理沙は窓枠に足を掛け、部屋に下りる際に軽く飛んで見せる。
そして着地後には体操選手さながらの両手を挙げた決めポーズを見せ、アリスの苦笑いを誘うのだった。
「玄関から訪れない者を客人と呼んでいいのかしら」
「まぁ硬いこと言うなって。私とアリスの仲じゃないか」
「それって侵入者と被害者の関係のこと? 」
いつもはぶつくさ言いながらもお出迎えの準備をしてくれるアリスが、今日は中々素直に迎え入れてくれないことに魔理沙は少しだけ頬を膨らませる。
「何だよ、今日は冷たいなぁ」
――くす。
分かり易い魔理沙の表情に、思わず笑みがこぼれた。
「ちょっとは玄関から入ることも考えてくれた? 冷たかったら部屋にすら入れないわよ」
そこに掛けてて、とアリスのお許しが出た後で魔理沙はソファーに腰を下ろした。