短編2

□ネズミとネコ
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「よっ、おまたせ!」

「もう〜遅いよっ」

案内されたのは奥の個室だった。
襖を開けると畳の上にテーブルが置いてある割とシンプルな部屋が見えた。
最初には入った山本を見た女の子達は可愛らしい声で控えめに怒った。
可愛らしい女の子が五人。
そこで第一印象が決まるのだが、俺が受けた第一印象は最悪だった。
入った瞬間に鼻に付くようなきつい香水の匂い。
短いスカートに濃い化粧、それに苦手な香水ときたらもう駄目だった。
こんな俺が無理!なんて言える立場じゃないのは分かってる。でも苦手な女の子達を見て、今日は早く帰ろうと決めた。
女の子は入ってくる男達を品定めするように見つめている。
俺の品定めは多分一秒で終わったらしい。既に視線は雲雀という彼に釘付けだからだ。
山本の友達もそのことに気づたようで、お互い肩を叩き慰めあっている。

「じゃあまず自己紹介からするか!」

ここはドラマ通りなのか、ふんふんと思いながら一人一人自己紹介を始めるのを見ていた。
自分の番が来たときに名前以外言うことが無かったから、とりあえず血液型だけ言っておいた。
どうせ女の子達は俺の隣に座っている彼の自己紹介を待っているのだから。
そして彼の番が来た。

「雲雀恭弥。」

またあの低音ボイスだ。
ドクリと心臓を掴まれるような痺れる声。
名前だけ言って黙ってしまった彼に女の子達は質問攻めしていた。
今何歳なのか、何処に住んでいるのか、休みの日は何をしているのか。
一問一答だったが女の子達は楽しそうにきゃきゃっと笑っていた。

(モテる人はモテる人で大変そうだなあ…)

そんなやり取りを他人事のように傍観していた。
でも女の子達の質問で彼のことを沢山知れた。
まず歳が一つ上ということ、それに地元が一緒だということ。
なんだか女の子なんかよりも彼にどんどん惹かれていっている自分に気が付いた。

(馬鹿馬鹿!男の人だし!)

ノンアルコールのカクテルなはずなのに、酔ってしまったのだろうか。
右側だけが何故が熱く火照っているような気がする。
チラリと勇気を出して隣にいる彼の方を見て見た。
目が合わないように手元からゆっくりゆっくり視線を上げていった。
まず目に入ったのは、ミントの入った赤いカクテルを持つ綺麗な手。
次に緩く結んだネクタイ、ラインの整った輪郭、そして瞳…
目に移った時にこちらと目が合いそうになったので、思わず分かりやすく背けてしまった。
右側から視線を感じる。
もしかして気分を害してしまったかもしれない。
謝ろうかどうしようかと考えていると、山本が立ちあがった。

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