短編2

□優しさは君だけに
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付き合い始めから十年間、彼はいつだって優しかった。
学生の頃は紅茶を入れてくれたし、体を繋げた後も優しく擦ってくれる。
その優しさはいつだって嬉しい。
だけど、それはいつだって俺限定だ。
彼がこんなに優しくていい人って分かって欲しいのに、他の人に対してはいつも無愛想。
「雲の守護者はいつも不機嫌そうだよな。」
よりも俺が聞きたい言葉は
「雲の守護者はいつも誰に対しても優しいな。」
という言葉。
期待しても無理だと分かっているけれど、少しくらい他の人に優しく接して上げてもいいと思う。

「ヒバリさん、いい加減にしてください。」

「何が。」

彼は報告書をいつも提出しないから俺が貰いに行くのが定番になっている。
和室の奥、ししおどしの音と庭にある庭園の草木が風に揺られ、擦れる音が聞こえる場所に彼はいた。
和服姿はいつもかっこいいとときめいてしまうが、今はそれどころではない。

「部下達から苦情が来ています。」

苦情が来るのは昔から変わらないのだが、最近は酷くなったという報告だ。
一ファミリーを壊滅させる為の任務には意気揚々と参戦し、あっという間に一人で仕上げてしまう。
同じボンゴレファミリーの皆は協力プレーで任務を遂行したいもの。
それが雲雀のせいで叶わないのだ。
それと一ファミリーの護衛の任務となると、全く興味を示さず、任務先まですら来ない始末。
前者はまだ動いてくれるからいいが、後者はそうもいかない。
護衛だって大事な仕事だ。
それを放っておいて、部下に任せてしまうだなんて守護者であっても許されない。

「彼らがやるから任せろって言ったんだ。」

「いいえ、言わされたと言っています。」

暫くの沈黙。
彼に見つめられても耐えれるようになった綱吉は自分で自分を凄いと思う。
部屋にはカポン、カポンとししおどしの音しか聞こえない。
どうして…どうして仲間と協力出来ないんだろう。
群れるのが嫌いという彼の言葉はもう聞き飽きたのだ。

「直す気、ありませんか?」

「ないね。」

即答で答えたマウスピース。
なんなら「せんか?」と被るくらいの速さだ。
それになんだかカチンと来てしまって、頭へ急激に血が上り始める。
どうして昔からそうなんだ。
そんな彼だから好きになったけれど、この十年で丸くなってもいいんじゃないか、とか。

「分かりました。そっちがその気なら…こっちにだって考えがあります。」

もう自分でも訳が分からなくなって、大きな声で叫ぶとバタンと大きな音を立て、部屋を飛び出した。

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