短編2

□Love story
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朝日が寝ている二人を包み込む。
カーテンは閉めたはずなのに、隙間から器用に二人だけを照らしている。
どこからか雀の声が聞こえ、鼻先を掠める匂いは秋独特の香り。
そういえば、昨日の諸事は非常に激しかった。
いつものことなんだけれど、昨日は特にそう感じたのだ。
世間一般では何でもない普通の一日、けれど俺と雲雀さんにとってはとても大きな一日。
…十年記念日だったのだ。
付き合いたての頃はとても初々しく、手を繋いで互いに顔を赤らめ合ったというのに、今じゃ体を繋げる仲だ。
まあ、十年も付き合っていたら当り前なのかもしれないが。

重たい瞼をゆっくりと開ける。
目の前にはあどけない表情で眠る彼の姿が映る。
俺の頭の下にある腕は普段トンファーで痛めつけているというのに、俺にとってはとても心地よい腕。
反対側の握られている手は、いつだって優しく俺を撫でてくれる。
形のいい唇は俺と触れ合い、今は伏せられているが漆黒の瞳にはいつも俺が映る。
十年経っても変わらない愛。
正直付き合い始めの頃は、ずっと一緒にいれたらいいと願うだけだったのに、実際に十年も一緒にいるだなんて思いもしなかった。
嬉しい。大好きな彼と共に歩んでこれた今の自分の人生はとても幸せだ。

「ん…っ」

小さく唸ると再び眠りに付いた愛しき人。
こんな可愛い表情も、優しい心も知っているのはたった一人、俺だけなんだ。
そう思うと胸の奥がどこかくすぐったい。
握られている手をゆっくり解き、少し開いている唇に人差し指が触れた。
そこはとても暖かかった。
そういえば雪降る寒い季節でも、彼の唇はとても暖かかった気がする。
どうしてって聞いたら、心が暖かいからだよって返ってきたんだ。
それに対してクスクス笑うと、ムッとした表情をしたっけ。
十年分の思い出はとても多く、今日だけじゃ語りきれない程。
時には喧嘩もしたし泣いたこともある、けれどその度に仲直りして、得た愛は大きかった。
とても幸せ、幸せ幸せ。

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