短編
□温水
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この思いだけは知られちゃいけねぇ
この思いだけは伝えちゃいけねぇんだ。
ーこの溢れ出てくる思いに蓋をするんだ。
十代目と出会って1年が経った。
初めて出会った時は、こんな奴がボンゴレの十代目だなんて、ふざけてやがる。
なんて思ってた、あの頃が懐かしい。
あの頃は良かった。
ただボンゴレ十代目を恨み、ターゲットにして、悪い奴に仕立て上げていた。
恨む相手が出来ると、自分が楽になれた。
まさか負けるだなんて思ってもいなかった。
ーまさか恋をするだなんても思ってもみなかった。
気性の荒い俺をいつも笑って宥めてくれて。
何をするのにも一緒で、一緒に居ることを嫌がるどころか、嬉しいと貴方は言った。
いつも一人だった俺の存在価値を見出してくれた。
友人から親友、親友からそれ以上に気持ちが動いたのは、あっという間だった。
だけどこの気持ちは伝えてはならない。
男同士とかそういうのは、優しい十代目は軽蔑などしないだろう。
違うんだ。そんなんじゃない。
俺自身を拒絶されるのが嫌なんだ。
存在価値が無くなってしまうのが、嫌なんだ。
「−−らくん、獄寺君!」
「!」
「どうしたの、ボーっとして。」
「へ…は、あ!すいません!」
ははっなんで謝ってるの、と貴方はまた俺に微笑んでくれる。
その瞳には俺しか写っていなくて…この先ずっとその瞳には俺しか写らなければいいのに。
「本当にどうしたの?大丈夫?」
「心配かけてすいません!全然大丈夫っス!」
「そう?じゃあ帰ろっか!」
いつものように十代目だけに向ける笑顔で笑えば、貴方も笑ってくれる。
その瞳にはやっぱり俺しか写っていなくて。
自分の中から何か黒い部分が見え隠れしていた。
コップの中から冷たい水がドバドバと溢れ出ているような感覚。
独占したい。貴方を俺だけのものにしたい。
肩に手を触れようとした瞬間だった。
「よっ!ツナ、獄寺!俺今日部活休みだから一緒に帰ろっぜ」
いきなり背後から俺と十代目の肩に、山本は手を回して来た。
「わっ!いきなりビックリするよ、山本!」
俺を写していた瞳は今度、山本を写していた。
そして貴方はあいつに微笑んだ。
もう嫉妬とかではなくて、なんと言っていいものか分からない感情に包まれた。
山本は肩に腕を回していた左腕、つまり十代目の方の腕だけを解いた。
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