頂き物文

□ああもう、どうしたって
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「どうしよう…どうすればいいのかな」
 蚊の鳴くような頼りない声で紡がれた弱音。それを口にした人物の眉間には深い皺が寄り、情けなくも眉尻が下がりただでさえ男らしくない顔を余計に貧弱に見せている。
 家庭教師はそんな教え子の姿に、罵る元気すらも失いただただ深く溜息を吐きだした。







ああもう、どうしたって







 沢田綱吉14歳、長いこと片思いをしていた同じ中学に通うひとつ年上(?)の雲雀恭弥くんとようやく気持ちが通じ合い、現在絶好調お付き合いの真っ最中。
 ……というのが、家庭教師・リボーンの認識だった。

 それがどうだ、今の教え子のこの様子。何か思い詰めたような困ったような表情をしているし、心なしか元気もない。1分に3回くらいのペースで溜息を吐く。
 あまりにもその溜息地獄がうざったいので、家庭教師はどうしたんだと聞いてやった。すると途端にダメ生徒は、「うわああん、聞いてくれよリボーン!」と家庭教師に泣きついてきた。
 どうやらいかにも悩んでいるようなオーラを出して家庭教師に聞いてもらうタイミングを計っていたらしい。家庭教師としてはまったくもって面倒くさいことこの上ない。抱きついてきたもさもさ頭をとりあえず一度渾身の力を込めて殴り、自身から離れ涙目で殴られた箇所をさすっている綱吉にもう一度どうしたのかと問うた。
「じ、…実はね…」
 先ほどのように困ったような表情を顔に貼り付け、元気なさそうに肩を落とし……しかし頬はバラ色に染めながら、綱吉はもにょもにょと話し始めた。
「あのさ…オレ、ヒバリさんと付き合ってるじゃん」
「ああ」
「ヒバリさんってさ…そ、その…かっこいいんだよ」
「…………」
「遠くから見ても立ち姿は誰よりも綺麗だし髪の毛もサラサラしてるし…で、電話もね、声がすごく良くて…」
「…………」
「あんなに綺麗な人なのにさ、すっごく強いし、怖いし…なのにヒバードとたまに会話したりしてるんだよ…!…もうたまらないんだ、ヒバリさんにメロメロなの、オレ…」
 …深刻そうな表情で語られた相談(という名の惚気話)を要約すると、こういうことだ。

 (沢田綱吉の目から見て)雲雀恭弥はとぉっっっってもかっこいい。だから恥ずかしくて、近づくのはおろか、目を合わせることすらできない。いつも目を合わせることができなくて、ホッとする反面、一瞬一瞬の彼を見逃していると思うと悔しい。どうにかして雲雀の顔を見れるようにしたいのだ。どうすればいいんだ、助けてください家庭教師様。

 こんなたった数秒で済むような相談の内容を話すのに、綱吉が無意識に惚気るため数十分近くかかった。
 その間中ずっと綱吉の頬は桃色に染まっていたし、暗い表情をしているくせに目だけは恋する乙女のようにとろりとろりととろけていた。どうせ頭の中に恋人の姿を浮かべていたのだろう。相談ともいえないような相談を聞きながら、本当に悩んでるのかテメーと、家庭教師は何度も引き金を引きそうになった。最終的にはそんな気力さえ奪われてしまうほどに、綱吉の惚気話は凶悪だった。
 …まあ、惚気ていると言えども目をあわせられないのは深刻な事態である。綱吉はまだしも、恋人に目を合わせてもらえない雲雀が不憫でならないと思う家庭教師。
 そしてこの悩みともいえない悩みを早く解決しなければ、毎日この話を聞かされるのかもしれない、と。リボーンの頭に嫌な予感が走ったのである。

 そういうわけで、家庭教師が迷惑極まりない教え子に手渡したのは。
 分厚いレンズをはめ込んだ黒ぶちのメガネであった。
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