長編側にいたい

□Two Hearts
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洗濯物のシーツの隙間から風がこちらへと吹いてくる。
どこか懐かしい匂い、並盛の匂いだ。
心安らぐ間もなかったこの頃、彼が目を覚ました知らせを聞いてからやっと心から落ち着いている。
彼を監禁している時も、戦っている時も、いつだって冷静で居られた。
だけれど、心の底では毎日が不安だったのだ。
お年寄りと看護師が話す会話が急に聞こえなくなり、一つの足音だけがエコーがかかったように響く。
周りを見るも、別に会話をやめてはいないようだ。
なら一体…?
段々近づいてくる足音の方に目をやると、そこにはパジャマ姿の綱吉の姿があった。

「…っ」

まだ起き上がってはいけないはずなのに、ゆっくりとこちらに向かってきている彼。
その間も足音は耳に響く。
彼の表情は少し悲しそうな、申し訳なさそうな、そんな顔だ。
数メートルの所で一度足を止めたが、数秒後に再び足を動かし、隣のベンチに腰掛けた。
細い腕には点滴の針が刺さり、顔色はまだまだ良いとはいえないものだ。
普段潤っている唇は今はカサカサに乾燥している。
その唇が少し開いた。

「ひばりさん、」

一つ、僕の名を呼んだ。
返事はせず、彼の方を見るも目を合わせてくれない。
恥ずかしいのか、それとも怖いのか、分からない。
名前を呼んでそれっきり、彼は唇を動かさなかった。
風が再び、洗濯物をすり抜け此方に吹いてきている。
ただ、先ほどは真正面に当るような風だったのに、今の風は二人の間をすり抜ける風だった。
それが何だか悲しかった。

「いつ、退院なの。」

周りは賑やかだというのに、二人の空間だけは酷く重く感じた。
それが耐えきれず、彼に質問を投げかけたのだ。
彼は相変わらず目を合わせぬまま、二三日だそうですと一言だけ答えて、再び唇を閉じた。
無事助けることは出来たが、結果こうなってしまったことに後悔する雲雀と、助けようとしているのが分かっていたのに酷い事を言ってしまったことを後悔する綱吉。
お互いに謝ることも普通に会話することも出来ぬまま無言が続いた。

「あの…、」

このまま何も言わなかったら、日が暮れてしまう。
明日になってしまったら更に何も言えなくなってしまう。
そう思った綱吉は閉じていた唇を開いた。

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