長編側にいたい

□Two Hearts
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窓を開ければ彼は土足で入ろうとしたので、丁寧に脱いで欲しいと頼んだ。
未だ不機嫌に思える表情だが、瞳はそう堅いものでは無い。
学校帰りにそのまま来たのだろうか、制服のままだ。
…いや、彼の制服以外の服装を見たことがないからそれは分からない。

「行こう。」

「え?」

部屋に入ってきた彼はすぐにドアの方へ向かい、階段を下りて行った。
訳の分からぬまま後に付いていく。
そういえば彼がこの家に上がるのは二回目か。
一回目はあんなに甘い時間を過ごしたというのに、二回目はこんなにも苦しい。
会いに来てくれて嬉しいけれど、素直に目を見ることが出来ない。

「あら?恭弥君…」

一階に降りると丁度廊下を通っていた母さんと鉢合わせした。
いつの間に入ったのと聞かれたらどうしよう、窓から入ったんだよなんて説明出来ない。
そんな事を思っていると、母さんは彼の名を呼んだ。
どうして知っているんだろう?
そして下の名前を呼ぶだなんて。

「色々…ありがとうね。」

母さんは涙ぐみながら彼にお礼を言った。
彼は何も言わず無表情のまま、少しだけ頭を下げた。
そういえばリボーンが言っていた。
俺の食事は全て母さんが作ったもので、それを彼が運んでくれていたと。
だから顔をお互いに知っているんだ、名前を知っているんだと理解した。
母さんがどこまで事情を知っているのか分からないけれど、後でちゃんと謝っておこう。
母親の涙は胸にずしりと突き刺さった。

家を出た彼は俺の一歩前を歩き、何処かに向かっていた。
何処に行っているのか、聞くことは出来ない。
彼の背中が何も言うなと言っているから。
二人の間には無言が続く。
一歩後から彼の頭、背中、指、足をくまなく見つめた。
足や背中は隠れているから分からないけれど、きっと傷はまだ残っているだろう。
白くて細い綺麗な指先には何本か切り傷は見える。
それは間違いなく少年に攻撃された後だ。
自分の頬にある傷と全く同じだから。

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