長編側にいたい

□Two Hearts
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互いに無言のまま着いた先は公園だった。
初めて来た公園ではない。
俺が少年に無理矢理キスをされたあの公園だ。
あれから怖くてどうしても立ち寄れなかった。
彼は敷地内に一歩足を踏み入れ数歩歩いてからこちらを振り向いた。
俺はその一歩が踏み出せず、公園の外から彼を見つめる。

「まだ、怖いの?」

時刻は夕方で、まだ小さな子供たちが砂場や遊具で楽しそうに遊んでいる。
ベンチにはカップルが座り、ペットを散歩させている人も居る。
穏やかで平和な公園なのに、入れない。怖い。
少し距離を取っていた彼が戻って来て、目の前に立った。
同じ地球の同じ日本の土なのに、その間には一本線がある。
普通の人なら簡単に乗り越えられる線なのに、俺にはどうしても怖かった。

「手が、寒い。」

そう言って彼は目の前に手を差し出した。
気温は寒いというよりもむしろ暑いくらいだというのに、どうしてそんなことを言うんだろう。
傷がまだ癒えていない白い綺麗な手を見つめる。

「綱吉は寒くないの。」

少し不機嫌そうな声がし、ばっと顔を上げればそこには柔らかい瞳があった。
怒っているんじゃなくて拗ねているような、そんな顔と共に。
彼と付き合ってまだ少ししか経ってないけれど、小さな表情の違いを見分けることが出来るようになっていた。
だから分かる、今の彼の気持ちが。

「寒い、です。」

差し出された不器用を俺は握った。
その手はやっぱり冷たくなんてなくって、暖かくって。
寒いと言っていた彼の方が断然温度は高かった。
そして手を握った二人は導かれるように公園の中へ入った。
あんなに一歩を踏み出す勇気が無かったのに、彼に引かれればあっさりと入れてしまった。
体の震えも無い、恐怖もない。
手の温もりと同じように温かい安心した気持ちになれた。
やっぱり彼が好きだ。
やっぱりという表現はおかしいけれど、愛しい気持ちが溢れて止まない。
繋いでいた手を恋人繋ぎに変えて、ぎゅっと少し力を入れてみた。
ちらりと此方を見た彼は進む足を止めず、握る手を同じように強めてくれた。

「ひばりさん」

彼はベンチへと進んでいたようだが、待てなかった。
その場で立ち止まり、彼の名を呼ぶ。
手を繋いでいるから必然的に彼も立ち止まった。
彼は何も言わず俺の言葉を待ってくれていて、その間も手は繋がれていた。

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