長編側にいたい

□真っ白
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「だから出せって。」

「僕…本当に持ってないんです…」

明日は中学入学だというのに、今日は大好きなゲームの発売日で商店街に買い物に来ていた。
母さんの準備して今日は早く寝なさい、と言う助言も無視した。
だって俺にとっては学校なんてどうでもいい。
大好きなゲームやって、普通に生きて、普通に生活していければそれでよかった。

でも今更になって後悔した。
あの時母さんの言うことを聞いていればよかったと。
財布に5千円を入れ、ゲームが売ってあるデパートに入れば、目の前には高校生くらいの大柄な男の人が二人。
捕われた宇宙人のように連れ去られれば、そこはあっという間に人目に付かない路地裏だった。
目的は分かっている。
少ない小遣いを頑張って貯めた、この5千円だろう。

「金無い奴が、デパートに来る訳ねぇだろ。」

「さっさと出しな。それとも痛い目にあってからの方がいいか?」

男が胸倉を掴み、殴ろうとする仕草をする。
あぁ、やられる。
ここで俺は殴られる。
キュっと目を閉じて、降りてくる拳を待っていると頭の上からふと、声がした。

「何してるの。」

その声は低く男らしい肉声で、脳内にさらりと入り込んできた。
瞑っていた目をそっと開けると、肩に学ランをかけた黒髪の男の人がビルの屋上からこちらを見下ろしていた。

(うわっ、かっこいい)

それが彼の第一印象だった。
切れ目の瞳を一瞬俺の方に向けたが、すぐに男二人に向けられた。

「んだお前?」

「お、おい止めろ。こいつ…あの並盛最強の不良のトップだ。」

「何!?」

男達は慌てふためいていた。
俺はただその行為を他人事のように、眺めていた。

「群れてるの?」

「やばい、逃げるぞ。」

「逃がさないよ。」

サッと俺達と同じ地に降りたったかと思うと、何処から取り出したのか武器を手に取り、目の前にいた男達はあっという間にやられていた。
俺には動きが早すぎて見えなくて、ただ見つめていた。

脳が付いていかない。
小学校…いや、小さい頃から頭がいい方では無かった。
状況がさっぱり理解出来なかった。
いつの間に、そして何故彼はこの男達を倒したのか。
もしかして助けてくれたのだろうか。

ふと彼を見ると、顔に浴びた血を手の平でさっと拭い、笑っていた。
それはもう楽しそうに笑っていた。

(この人、危ない…!)

これが彼の第二印象だ。
逃げようと思うも、足が竦んで立ち上がれない。
見ると膝が大きく笑っていた。
逃げなきゃ、逃げなきゃ今度は俺がやられてしまう。
頭は良くないが、空気は読める方だと思う。
この雰囲気は明らかにヤバイものだと、脳が理解する。
ものの、体だけはどうしても言う事を聞いてくれなかった。

彼と目が合う。
ドキンと胸が高鳴った。

「っ」

先ほどの男達のようにやられる、そう思い、また目を瞑って攻撃を待ったが、一向にされる気配はなかった。
そっと目を開けると、路地裏の隙間から注ぐ太陽の光と、彼の後ろ姿が目に入った。

何も言えなかった。
学ランを靡かせて歩く、彼の後ろ姿をただ見つめるしかなかった。

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