長編側にいたい

□淡い桃色
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彼の奴隷になって、数日が経った。
それまでに俺がした事は特になくて、指示されたことは毎日遅刻をしてはいけないということだけ。
そんな当たり前の指示も、遅刻性な俺にとっては酷で、毎日が地獄だった。
でも、その地獄よりもさらに深い地獄が待っていると思うと、必死になるしかなかった。
毎日のように校門の前で風紀委員が遅刻検査をしているから、嘘はバレてしまう。

「…はぁっ、はぁ」

今日もギリギリセーフ。
チャイムが鳴る寸前に滑り込みで門を潜ることが出来た。
俺の後ろに居た生徒は目の前で風紀委員に止められ、チェックを受けている。
あぁ、可哀想だななんて、数日前まではそんな目で見られる立場だったのに。

「沢田。」

「…ヒバリさん」

彼は毎日風紀委員と一緒に校門に立って検査をしている。
今日もまた、立っていたらしい。

「今日も遅刻しなかったね。」

「はい、昨日早く寝ましたから…」

彼の目をまともに見ることが出来ない。
怖い訳じゃない、何故か目を合わすと吸い込まれるような気がするのだ。
心臓もドドドと急に忙しなく働き出す。

「そう。」

一つ言葉を残して、彼は去っていった。
顔を上げて見ると、そこにはやはり彼の後ろ姿が目に入ってくる。
出会った時と保健室の帰りと、俺はいつも後ろ姿しか見てないなって。
ちゃんと彼と向き合いたい。

「って…なに考えてんだ、俺」

重力に逆らった生まれつきツンツンの髪をくしゃりと掻いてまた自己嫌悪に陥った。
そうしている内に教室に到着して、目の前の扉を憂鬱に思いながら開ける。

「お、奴隷様のお出ましだ。」

「今日も奴隷は遅刻せず出席ですか!えらいな。」

彼としたあの契約の話は先輩から一年へとあっという間に広まっていて、俺をイジメていた奴らはさらに馬鹿にしてきた。
正直雲雀さんとの契約よりも、毎日のイジメのほうが耐え難いものだ。
席に着いて、机の中の教科書を取り出せば、丁寧に一ページ一ページに書かれた「奴隷」の文字。
そんな時間があるなら、もっと役立つことをすればいいのに。
パタンと教科書を閉じて、机に伏せた。

(今日の授業は全部睡眠学習だな)

そうして目を閉じて夢の中へと意識を預けた。
奴隷になってから、先生達は俺に手出し出来ないのか、何をしても何にも言われなかった。
それは嬉しい事なのだが、逆に先生達は俺がイジメられている事実を知っているのにも関わらず何もしようとしないのだ。
見て見ぬフリ。
最初は目で助けての合図を送っていたが、見事に無視をされたので、もう何も頼らなくなった。

奴隷になって、学校ではイジメられ先生からも無視をされる毎日。
何のために学校に来ているのだろうかと、毎日自分に問いかけた。
毎日答えは出ないけど、夕日に照らされた雲雀さんの微笑みがいつも頭に浮かんで来る。

「意味が分かんないよ…。」

また俺は夢の中へと落ちた。

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