長編側にいたい

□そしてクリアに
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「ねぇ、この前君が僕に言った事、考えたんだ。」

「言った事と仰いますと…何故沢田に手を出したかということですか?」

「うん。」

先ほど感じたくすぐったい感情も、僕は知らない。
沢田と出会ってから僕の中は少し変わっていっているようで、今までにない感情で溢れている。
それが何かも分からない。
知らないのだから、分からないのは当然で。
人に聞くのは腑に落ちないが、この彼なら、答えを知っているだろう。

沢田が他の奴と話をしている時に起こるイライラする感情。
沢田が慌てたり、顔を赤くしたりした時に起こるくすぐったい感情。
沢田が泣くと、胸が締め付けられるような感情。

あまりベラベラ喋るのは得意じゃないから、淡々と草壁に伝えた。
彼の顔もいつになく真剣で、何度か相槌を打ち、黙り込んで数秒考えた後、彼はゆっくりと口を開いた。

「答えを…言うのは簡単です。ですが、私の口から答えを言ってしまっては意味がありません。」

正直彼の言っている意味が分からなかった。
知っているのなら教えてくれたらいいのに。
どうして意味がないのだろうか。
少し不機嫌になりながら、僕は黙って彼を見つめると、暫くしてまた彼は口を開いた。

「少し…ヒント、差し上げます。」

「…ヒント?」

「嫉妬…の意味はご存じでしょうか?」

「知ってるけど、知らない。」

上から目線の彼にイライラしながらも僕は答えた。
勿論嫉妬の意味は知っている。
けど、感じたことが無いから知らないのだ。
僕の返答を聞いた草壁は少し苦笑いをしていた。

「その意味が理解出来れば、先ほど仰られていた知らない感情が順番に、理解出来るはずです。」

そう言って草壁は一礼すると、出口の方へと去って行った。
数秒彼の後姿を見送った後、僕もいつもここの病院で休んでいる部屋へと足を運んだ。

一歩一歩進む度考えるのは、草壁が残した言葉。
実際僕自身頭はいい方で、勉強など習わずとも理解出来る脳を持っている。
だけれど人との関係を嫌う僕は、人との関係で生まれる感情などには全くもって知らなくて、興味さえ湧かなかったのだ。
自分の世界に誰かを入れるなど気持ちが悪い、とさえ思う。
僕は僕なのだから。

だから草壁が残した「嫉妬」という言葉は分からないのだ。
部屋に着くなりベットへと潜り込んで、一つあくびをした。
窓から差し込む光は温かく眠気を誘うが、彼の容体の心配と嫉妬の意味を考えるのでいっぱいで、眠れる訳もなく、天井を見つめていた。

「嫉妬…」

彼はこれが理解出来れば、さっき言っていた言葉の順番に理解出来ると言っていた。
と、言うことは、ヒントのヒントは「沢田が他の奴と話している時に起こるイライラした感情」ということだろうか。

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