長編側にいたい

□そしてクリアに
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沢田は僕には見せない表情(かお)をいつも周りにいる二人には見せる。
楽しそうに笑ったり、おどけたり驚いたり。
僕にはそんな表情なんて見せないから、だからいつもイライラするんだ。

嫉妬というのは、相手を思うから出てくる感情で…僕は誰にも好意など抱いていないのに。

「…誰にも、?」

それは本当なのだろうか。
そもそも好意とはどういったモノなのだろうか。
僕と張り合えるような強い相手への気持ち…?
いや、それなら僕自身何度か経験したことのある感情だから、それならすぐに分かる。

じゃあ、沢田への感情は?

「独占欲…嫉妬、」

僕は沢田に好意を抱いている…ということだろうか。
じゃあこの独占欲は、仲良さそうにしている二人へ嫉妬していた、ということ…?

「まさか。」

相手は弱そうな草食動物で、男で、奴隷なのだ。
そんな事がある訳がない。
人との慣れ合い関わりに興味がない僕が、彼に好意を抱いて嫉妬していたなんて、ありえる訳がない。

「乳くせぇな。」

僕以外誰も居ない部屋の中から、ポツリ黒い声が響いた。
人が近づくとすぐに感じ取れる僕でも彼の存在には気付けなかった。
存在を消すことが出来るのだろう。

「やぁ赤ん坊。」

やっと戦ってくれる気になったのかと思い、トンファーを構えたが、彼は帽子を深く被りなおし表情を隠した。
こちらからは表情の確認は出来なくて、でもその代わりに痛いほど強い殺気を僕に浴びせた。

「お前、ツナになんてことしてくれたんだ。」

「何って…彼は僕の奴隷なんだから。」

「…まだまだガキだな、てめぇらは。」

「赤ん坊の君にガキとか言われたくないよ。」

その強い殺気は収まることなく、先ほどからずっと浴びせられている。

「ヒバリ、お前はツナの事をどう思ってんだ。」

どうって…彼は僕の奴隷だから、どうって言われたって困る。
奴隷だから独占欲が湧くのだ。
なんてことない、答えなんてすぐに出たじゃないか。

「僕は彼を奴隷…」

「違ぇゾ。奴隷だから独占欲が湧くんじゃねぇ。」

まるで僕の心の中を読んだかのように、言い放った彼の言葉は、僕の鼓膜を揺さぶった。

「お前、小さい頃愛情を貰って育ってないだろ。」

「…っ」

その瞬間忌まわしい過去を思い出す。
父親に虐待をさえていた、あの時の記憶が本が開けたようにパラパラと捲られてゆく。

「愛情を知ねぇんだ、そりゃあ愛し方も知らねぇ訳だ。」

「どういう事?」

「おめぇのモヤモヤを解消してやる。」


ツナサイド→

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