長編側にいたい
□ほくほくの頬
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あの結ばれた日から、とにかく彼は優しかった。
精神面で倒れた俺は翌日からすぐに退院出来て学校にも通えるようになり、休んでいた間心配をかけた親友二人にも謝った。
「十代目が謝ることじゃないです!ご無事でよかった。」
「もうツナ元気なのな。」
俺を見た獄寺君はすぐに駆けつけて、大丈夫ですか、を連呼していた。
いつも穏やかな山本も少し眉を下げ心配そうな面持ち。
本当にいい親友を持った。
学校の屋上で彼らと群れるな、と言われた。
晴れて恋人になった時も同じように言われたが、俺が必死に説得した。
二人は親友で、大切な友達でファミリーだから、と。
必死な訴えが通じたのか、渋々ではあったが了解を得たのだ。
「そういえば…」
俺を襲ったあの少年がクラスに居ない。
いつも女子に囲まれて男子にも人気な彼が、最初から居なかったかのように違和感がない。
「京子ちゃん、あの…転校生は?」
「あツナ君、おはよう。あの子ならまた転校しちゃったの。」
「え…転校?」
「うん。ツナ君が休んだ日に突然。残念だよね、折角お友達になれたのに。」
彼女の言葉の最後は左から右へと流れて行った。
転校しただなんて。
転校してきたのはほんの数週間前だというのに、まただなんて都合が良すぎる。
雲雀さんに怯えたからなのか、それとも他に何か理由があるのか。
情報も確証もない今考えても分からないから、放課後雲雀さんに相談してみよう、そう思った。
彼からは毎日応接室に来るように、と命じられている。
まだ奴隷制度が続いているからなのか、それとも恋人だからなのか…どちらか分からないが、雲雀さんに会えることには違いないからどうでもよかった。
授業終了のチャイムが鳴るのを今か今かとそれは楽しみに待っている。
以前はあんなに怖くて仕方がなかったのに、不思議だ。
奴隷にされて犯されて…精神的にも参っていたのに、今じゃ彼に会いたくて仕方がない。
それはきっと優しい面も知ってしまったから。
他の誰も知らない、俺にしか見せない笑顔を俺は知っているから。
思い出すだけで思わずにやけてしまう。
「こら沢田!何ニヤけてる。」
バコンと先生の教科書の一番固い所が後頭部にクリーンヒット。
クラスのみんなが一斉に笑いだす。
その笑いの中心に俺がいるのだから、これまた不思議に思う。
奴隷、ということで最初はイジメられていた。
だが彼のおかげでそのイジメは無くなったし、逆にみんなとは冗談を言い合える仲にまでなっている。
俺を笑うみんなの声はあの下品な笑い声なんかじゃなくって、心から笑っている声だ。
痛さで顔を歪めていた俺もそんな笑顔を見て、またニヤけてしまう。
幸せだ。
平凡で幸せだ。
「…―!」
笑いで包まれている教室の中、何かピンと突き刺さる視線を感じた。
感じたことのある鋭く黒い視線…それは少年のモノだ、間違いない。
ばっ、と視線を感じた方へ振り向くと、そこには広い校庭しかなくて、少年の影はない。
外で体育の授業をしている生徒一人ひとり確認したが、発見出来なかった。
その視線は確かにあの少年のモノだったのに。
綱吉は見つけることが出来なかった。
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