短編2
□星になって見守るから
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ポツリ、ポツリと胸の中で雨が降り始めた。
ずっと一緒にいようね、そう抱き合いながら明かした夜もあった。
最初で最後の恋人にしてください、と泣きながら言う綱吉にキスをした日もあった。
付き合った期間はそう長くはないけれど、思い出は沢山ある。
僕は誰かが死んだ時泣くことはないと思うけれど、きっと綱吉が死んでしまったと分かったら涙は流れて止まらないと思う。
でも、綱吉はそうじゃなかった。
「ヒバリ…?、あ」
俯いて何も喋らなくなった雲雀にそっと声を掛けたが、何も言わずにスゥっと消えてしまった。
山本が伸ばした手の先には何もない空間。
浮いている手を机に戻し、軽くそこを殴った。
「ヒバリ…違うんだ。ツナだって…」
その言葉はもう誰にも届かないと分かった山本は、それ以上何も喋らなかった。
「沢田君、今度の日曜日遊園地行かない?」
「え?」
同じクラスの女の子に呼び出され差し出されたのは遊園地のチケットだった。
話した事はあまり無いけれど、とても可愛い女の子だ。
「沢田君さ…もうヒバリさんのことは忘れようよ。辛いだろうけど、忘れたらきっと楽になるよ。幸せだったって思える思い出になるよ。」
そんなに辛い表情をしていただろうか。
駄目だなあ。学校では心配を掛けないように笑顔でいたつもりなのに。
彼女の言うことは、正しいのかもしれない。
忘れないように、忘れないようにと毎日思い出巡りをしている自分。
そうじゃなくていっそ忘れてしまって、綺麗な思い出として残せるのじゃないだろうか。
「うん、わかっ…うわああ!」
「え?」
承諾の返事をしようと綱吉が彼女を見ると、背後に雲雀が立っていて、後から物凄く睨んでいる。
そして腕を彼女の心臓当りへ突っ込んだのだ。
ここからは彼女の体から雲雀の腕が刺さって見える為、凄いホラーな映像だ。
勿論透けている体だから見えていない彼女はどうしたのかと心配そうに綱吉を見ている。
「何この女。綱吉を誘惑するつもり?頭悪そうな顔して胸だけ異様にデカイ。そこにばっかり栄養がいってるんじゃな…」
「もう、いい加減にしてください。」
「え?さ、沢田君?」
「いや、君じゃなくて。」
綱吉は彼女の手からチケットを奪い取った。
ありがとう、と微笑みながら。
その表情を見た雲雀が彼女にトンファーで攻撃するも、当ることなく彼女の体をすり抜ける。
どうしてこんな女なんかとデートをするんだ。
もう忘れてしまったのだろうか、あの思い出達をあっさり捨ててしまったのだろうか。
雲雀を見つめる綱吉の目は冷めたものだった。
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