短編2

□ネズミとネコ
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合コン当日まで一週間もあったというのに、緊張のせいかその日はすぐにやってきた。
散髪もしたし、お気に入りの服も着た。
香水は嫌いだからつけてないが…集合時間前にちゃんとお風呂に入ったから臭くないはず。
合コンを取りつけてくれた友人を待ち合わせ場所で待っていた。
だが時間が過ぎても一向に現れない。
どうしたものかと電話をしてみると、声は枯れ、いつもよりも低い声でもしもしと喋った。

「ごめん沢田…俺風邪引いちまっだみでぇ。俺居ないげど頑張れよな…」

「え!嘘!?…っっうん、じゃあお大事にね…」

ゲホゲホと咳をしながら彼は電話を切った。
正直心強い友人がいるから今日の合コンは頑張れると思っていたのに、一気に不安に駆られた。
メンバーも友人の友人だから知っている人は一人も居ない。
どうしよう…いっそこのまま帰っちゃおうか、と思ったが、折角合コンに参加させてくれた友人に申し訳ないし、参加しなかったと後から聞いたらきっと怒るだろう。
大丈夫。乾杯して愛想笑いをしてたら時間なんてすぐ経ってしまうだろう。
自宅へと向けていた足を集合場所へと向けて、一歩歩き出した。
新しい出会いに向かって。

集合場所へ行くと一人の青年が立っていた。
スタイルは抜群に良く、本を読んでいる手も白くて綺麗だ。
切れ目に黒い髪の毛、そして整った顔。
全てが完璧すぎて周りの人が二度見し、そして立ち止まってしまう程だ。

(うわ…かっこいい)

どこかのモデルさんだろうか。
それにしても集合場所である時計台の下にいるのは気のせいだろうか。
こんな美男子が合コンになんて参加する訳がないか。
きっと彼女と待ち合わせをしているのだろう。
そんな彼と少し距離を開けてその時計台の下に立った。
彼は本から視線を外し、近くに立った俺を見てきたから、バチリと目が合ってしまった。

(ドキって、何でだよ!)

体は正直なのだろうか。
目が合っただけで心臓は大きく跳ねあがった。
彼の瞳は漆黒で凄く綺麗だった。
見つめられると目が離せなくなるような、射抜く瞳。
身動きが取れなくて、まるで二人の時間が止まってしまったようだった。

「よ!これで男子は全員集合?」

後から声が聞こえ、ハッと我に返り振り向いた。
そこには男の人三人がいて、一人がニコニコとこちらに手を振っていた。

「えっと、それで…お前が沢田でよかったっけ?」

「はい、よろしくお願いします!」

背の高い好青年に声を掛けられた。
俺の通っている大学はとても広い。
学年や学科が少しでも違えば全く知らない人ばかりなのだが、この人は有名だから知っている。
野球部のキャプテンである山本だ。
こんな有名な人と知り合いだなんて友人が凄いと思った。

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