短編2

□ネズミとネコ
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「じゃ、予約してる店に行くか。」

ニカッと笑う山本は初対面の俺に優しくしてくれた。
この出会いだけでも合コンに参加してよかったかも、と思える。
メンバー四人でお店に向かおうとした時、一歩踏み出した山本が足を止め振り返った。

「おい雲雀。早くしねぇと置いてくぞ。」

山本は美男子に声をかけたのだ。
彼は読んでいた本を仕舞い、ムスっとした表情でこちらに向かってきた。

「うるさいよ。」

その時初めて彼の声を聞いて鳥肌が立った。
低音ボイスに体が痺れてしまったのだろうか。それともただ単に寒かっただけだろうか。
山本と彼が数回会話して、男五人でお店に向かった。
なんと彼は合コンメンバーだったらしい。
どうしてこんなイケメンが合コンに参加するんだろう。参加しなくてもモテるだろうに。
それに彼が参加してしまうと女の子みんな彼を狙いに行くのではないだろうか。
そう思ったのは俺だけじゃなかったみたいで、山本の友人も苦笑いをしていた。
お店に向かう途中は山本が俺の話し相手になってくれた。
あの有名な山本が俺のことを前から知っていて、話してみたかったらしい。

「沢田って実は有名なんだぜ?」

「は!?な、なんで?」

「めっちゃ可愛い男の子って有名。みんな騒いでるの気付かなかったか?」

俺はただ首を振ることしか出来ない。
そんなことで有名になっているなんて知らなかったし、そしてそれは全然喜ばしいことじゃなかった。
昔から言われ続け嫌っていた‘可愛い’という言葉をまた言われてしまったから。
でも山本は悪気があって言った訳じゃないから、どうにか笑顔を作って冗談やめてよと返した。
そんな作った笑顔を後で彼が見ているなんて知らずに。


お店に到着するとそこは雰囲気のいい居酒屋だった。
もう女の子たちは中で待っているということで、男達五人で居酒屋の店内へ入ることにした。
外から見るとお洒落で入りにくそうな場所だと思ったが、入って見れば昔ながらの雰囲気もあるようなお店だ。
チラリと見えた黒板には、本日のメニューと白いチョークで書かれてあって、少しばかり緊張が解れた。
だけど、どうしても気になってしまう彼のこと。
俺の一歩後をずっと歩いている彼を見たくて振り向きたいけど、目が合ってしまった時固まってしまいそうで、振り向けなかった。
ただずっと視線は背中に当っているような気がする。
自意識過剰かもしれない、いやきっとそうだ。
モデルのような彼がこんな俺なんかを見つめる訳がない。

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