短編2

□しようチュー?
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机の上には山積みになっている書類、インクが半分に減ったボールペン、そしてそこには不釣り合いな箱が一つある。
赤いリボンとピンクのタータンチェック柄の包装紙に包まれている正方形な箱。
それは頂き物ではない。
中にとても美味しい物が入っているのは知っているが、自分が開けては意味が無い物だ。

「もう、今年でやめよう。」

今日はバレンタインデー。
好きな人に告白をするチャンスをくれる、唯一の日。
毎年この日に綱吉はチョコレートを用意していた。
もう用意し続けてかれこれ十年になるだろうか。
用意しても用意しても、渡す勇気を毎年持てないのだ。
理由は簡単。
振られるのが分かっているからだ。
相手は何をやっても出来る秀才、そして顔も整っていてとてもモテるし、何よりも同性なのだ。
どう足掻いたって無理なのは分かっている。
それでも気持ちだけでも伝えたいと思い、勇気を出してチョコレートを用意するも、結局は自分で食べてしまう。
関係が崩れるのが怖い。
そんなに親しい訳ではないけれど、報告書を持ってくるときに少しだけ日常会話をしたり、元気が無い時に欲しい言葉を言ってくれたり、そんなさりげない毎日が幸せなのだ。
それももう今年で止めてしまおう。
このチョコレートを渡して関係を崩すのではなく、告白をすることを、だ。
別に彼と付き合って何かをしたいと思っているんじゃない。
…いや、出来る事ならしたいけれど、そうじゃない。
彼が話しかけてくれるだけで、目が合うだけで、姿が見れるだけで幸せなんだ。

「ツナー入ってもいいか?」

数回のノックの後、懐かしい声が聞こえた。
執務室に入ってきたのはイタリアからやってきたディーノだった。

「お久しぶりです!ディーノさん。」

「ははっツナ身長変わってねぇな。って半年でそんな伸びねぇか。」

「ディーノさんは会う度に大きくなってる気がしますけどね。」

そんなディーノと久々の再会で話が弾む。
しなければいけない仕事の事も午後の予定もバレンタインの事も全て忘れて。
ディーノは綱吉よりも年齢が一回り上というのもあるが、落ち着いていてしっかりとした大人だ。
話しているとボスという名を忘れ、気兼ねなく話すことが出来る。
でも、恋愛の話はしない。
普通の恋愛だったなら、きっと彼に相談してアドバイスを貰っていただろう。
だけど相手は普通の相手ではない。しかもディーノの弟子にあたるのだ。
尚更相談なんて出来なかった。

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