短編
□大空と雲
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ーなんて
ーーなんて遠いんだろう
〔大空と雲〕
授業が終わり今は放課後。
ヒバリさんと応接室で過ごすのは日課だが、今日は見回りがあると言われたので、時間まで暇を潰しに屋上にいる。
屋上から下を見下ろせば野球部の練習姿が目に見えた。
「山本大会近いから、張り切ってんなー。」
誰も居ない屋上で一人ポツリと呟く。
下を見下ろしていた目線を今度は上に向けてみると、空は晴れていて、雲もゆっくり流れている。
学校の中で一番高い位置にある屋上では、空を見上げるのに邪魔な電線なんかは無く、ただただ大きな空と雲が見えるだけだ。
視界を邪魔する物が無ければ、あたかも手に届くほどの近さにあると、錯覚してしまう。
綱吉は上に手を伸ばした。
ゆっくり流れる雲を掴んでみるが、それは当然届くはずもなく、手の中から空気が抜け落ちる。
ジャンプしてジャンプして掴んでみても結果は当然同じであって。
(まるでヒバリさんみたいだな…)
「何してるの」
空にある雲を掴むことに集中していた綱吉は、背後から聞こえる声にハッとし、振り向いた。
その声の主は、只今見回り中の並盛中学風紀委員長雲雀恭弥、否綱吉の恋人だった。
「ヒバリさん!」
タタッと雲雀の元へ駆け寄り、蜂蜜色をした大きな目を輝かせた。
「もう見回り終わったんですか?」
「いや、まだ終わってないけど…君はさっき何をしてたの?」
見回り途中だと聞き軽く凹んでいると、さっきの馬鹿な行為を見られていたという羞恥で顔が赤くなる。
「質問に答えなよ」
ヒバリさんの顔を見ると口をへの字に曲げ、軽く怒っているようだった。
(正直に話しても馬鹿にされるんだろうな…)
えっ、とかあの、とか言葉を詰まらせていると
「早く答えないと咬み殺…」
「わーわー!!言います!言います!言わせて下さい…」
恋人になってから咬み殺されたことはないが、咬み殺すという言葉には敏感に反応してしまう。
「…見上げればあんなに近くに雲があるのに、なんで掴めないんだろうって…」
「…」
雲雀は無言で綱吉が指を指す、天を見上げた。
(うわ…絶対馬鹿だとか思われてんだろうな)
綱吉は天ではなく、雲雀を見上げた。
「ふぅん。なるほどね。」
「ほぇ?」
「僕も屋上でよく昼寝をするから、思ってたんだ。君とは少し違うけど。」
「…ヒバリさんは、何を思っていたんですか?」
予想外の返事といつもと違う雲雀の声に綱吉は耳を傾けた。
「君はボンゴレとかいうので大空の立場なんでしょ?そして僕が雲。大空は雲が無くてもそこに存在し得るけど、雲はそうじゃない。
大空が無ければ、雲は存在価値がない。存在すらしないじゃない。」
今も尚天を見上げながら雲雀はポツリと呟く。
その目には光の錯覚は、本物なのか分からないが、軽く涙を浮かべているように見えた。
「ヒバリさん…」
「空も雲が無い方が、視野が開けてよく周りが見えるんじゃない?」
それはまるで雲雀がいなければ、拘束される事無く綱吉は自由なんじゃない?
との代名詞かのようだった。
「ヒバリさん、それは違います。」
「どうして?」
「確かに空が無ければ、雲は存在しないかもしれない。けど、’俺’は’雲雀さん’が居ないと存在しな…!」
最後は涙で声が震え、はっきり言えなかったけど、言い切る前に俺はもう雲雀さんの腕の中にいたからちゃんと伝わったんだと思う。
燦々と降り注ぐ空からの光は暑く、影に入りたくなるけど、雲があるから暑さも軽減され、腕の中は暖かかった。
⇒おまけ+あとがき
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