短編
□好きの呪文
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目の前には大好きな彼の無防備な姿が目に入る。
周りをキョロキョロと見渡し誰も居ないことを確認すると、俺は彼の頬に少し触れた。
手から伝わる熱は思っていたより熱を持っていて、ビックリした。
触れても起きないことを良いことに、俺は雲雀さんの前髪を掻き分け、普段お目見えできないおでこを露にさせた。
(うわっ顔小さい…肌白くて綺麗だ。あっ睫毛も意外に長いや。)
夢を見ているのか、睫毛がピクピクと揺れていた。
これだけ触れても起きない雲雀さんに俺は声を掛けた。
「ヒバリさん?」
はやり起きる気配は無かった。
そうとう疲れているのだろう。
俺は周りに誰も居ないのは確認済みだが、再度室内をキョロキョロと見渡した。
案の定誰も居なかった。
今目の前には大好きな人がいて、その人は今この場に意識はない。
俺は気持ちを伝えないと決めていた。
だけど、いざ本人を目の前にした時、好きという感情が溢れ出てきて、口が勝手に動いてしまいそうになる。
告白できる勇気を持ち合わせていないんじゃない。
その後の返事を聞く勇気がないのだ。
だけど、今伝えたらどうなるだろう。
もちろん彼は今夢の中なので、答えが帰ってくることはない。
「ヒバリさん…?」
再度彼の名前を呼んでみるも、やはり返事は返って来ない。
俺はゴクリと喉を鳴らした。
(今なら、今なら伝えられる…)
「ヒバリさん…好きです…。」
多分隣に人が居たとしても聞こえない程微量な声で言葉を発した。
それでもやっぱり不安で、彼を覗いてみると、変わらずすぅすぅと寝息を立てている。
(よかった、やっぱり寝てる)
俺はフゥっと安堵の息を吐いた。
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