短編

□温水
2ページ/4ページ


いつまで経っても俺の肩から退かない腕にイライラし、

「んだよ、早く放せコラ!」

と言葉を浴びせ、腕に手をかけて退けようとした。

だが何故か力を入れても解かれなかった。
変わりに山本の顔が耳に近づき、言葉を発した。

「理性保てよ。」

「!」

ボソリと呟くと腕は解かれ、何事も無かったような顔をして山本は笑っていた。

(な、んなんだよ。)

言葉を理解するのに時間が掛かった。

だが冷静になれば呆気なく理解が出来て、ドッと怒りが込み上げてきた。
俺の黒い部分を見据えていたのだろう。

キッと山本を睨めば、奴は胸の辺りでお手上げのポーズをしていた。

「わりぃ、やっぱ用事思い出したから、先帰ってて。」

「!」

「あ、そうなんだ。じゃあまた明日学校でね!」

「おう!またなっ」

言うなり山本は去って行った。

俺の頭の中は、山本が放った言葉がグルグルと回っていた。

「獄寺君、これからどうする?どっか行く?…ってもお金ないけどね。」

アハハと貴方はまた笑う。

「…なら俺んち来ませんか?」

「え、いいの?獄寺君ちってそういや行ったことなかったよね。」

「…コッチっス」

「うん、って待ってよー!」

俺は足早に家へと急いだ。
今まで誘うチャンスは無かったわけじゃない。
タイミングが合わなかった訳じゃない。

俺の気持ちが溢れ出そうだったから、勇気がなかったから誘わなかっただけであって。

でももう無理だ。
この思いはもう止め処なく溢れてきて、まるで出しっぱなしの蛇口みたいに、漏れ出してきている。

伝えて貴方を失うのなら、体だけでも俺のモノに。

「ご、獄寺君!はっ早いよ…っ」

「っ!あ、すいません!」

「獄寺君はいつも、はぁっ、俺に歩幅合わせてくれてたんだね。ごめんね、俺遅くて。」

「いえ、そんな…!」

そんな顔で笑いかけないで下さい。
俺は今から貴方の体を壊すんです。

「…ねぇ獄寺君、やっぱり今日変だよ。何かあったの?俺じゃ…頼りならないかもしれないけど、よかったら話してよ?」

原因は貴方なんです。
貴方は俺をこんな風に変えてしまったんです。

「聞いてる?獄寺君。」

「…ココです。」

「うわぁ!大きなマンション!何階に住んでるの?」

「最上階ですよ。」

「え゛!?家賃高そっ…やっぱり獄寺君はお坊ちゃまなんだね〜」

俺はそれ以上口を開かなかった。
貴方はエレベーターの中に入っても、ずっと喋り続けていた。

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ