短編

□温水
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ガチャリとドアを開けると、貴方は遠慮がちに入って来た。

「わぁ、獄寺君の匂いがするね!」

「…」

「家具もシンプルだし、獄寺君っぽいな。」

「…」

「ふふっリモコンも綺麗に並んであるね!」

「…っ」

ドサリっ…

ひたすら喋り続ける貴方の手を取り、ベットへ投げつけた。

「…ったぁ〜」

痛がる姿を余所に、俺は十代目を押し倒し、組み敷いた。
両手を塞ぎ、首筋に俺は顔を埋めた。

「…」

「…なんで、抵抗しないんスか、」

泣きじゃくると思っていた。
やめてと懇願する貴方を想像していた。

だけど、顔を見ると想像とは真逆で、いつものようにふわりと微笑んでいた。

「予想、出来てたから。」

「…え?」

「あはは、でも俺緊張しちゃって、来る時五月蝿くてごめんね?」

十代目はまた微笑んだ。
でも、今度の笑い顔は少し引き攣っていて、塞いでいる両手はフルフルと震えていた。

「もう大丈夫、心の準備は出来たから…」

「…っ今から何されるか、分かってんスか!?」

「分かってるよ。」

「じゃあ何で…」

「獄寺君だから」

「!」

今度は凛とした瞳で俺を見つめていた。

「獄寺君だから、いいって言ってるんじゃん。」

「…それって、」

「獄寺君が好きだから。」

「!」

またコップから水が溢れ出していた。

でも今度は冷たい水ではなくて、体温くらいの暖かい、温水のようだった。
溢れ出たその水は心の中だけじゃなく、目から涙として流れていった。

「十代目…俺っ」

「分かってる。何も言わなくていいから。」

塞いでいた手の力を抜くと、貴方はそっと起き上がり、俺を抱きしめた。
大丈夫、大丈夫と言いながら、俺の背中をポンポンと叩いて慰めてくれた。

貴方は俺の心を見透かしていたんですね。

何もかも分かっていてくれたんですね。


俺はゆっくり十代目の体を剥がし、目を合わせた。

「十代目、最初からやり直させて下さい。」

「ん?」

「俺、貴方を愛しています。付き合って下さい。」

十代目は顔をカァァっと赤くさせた。

「あ、愛してるは予想外だったな、あははっ。…うん、俺も獄寺君の事、あ、
あっ、愛…ごめん、恥ずかしくて言えないや。」

「ふふっ、可愛いッス」

「えっと、俺も獄寺君が好きだよ。…今はコレで許してっ」

チュッと鼻に何か柔らかいものが当たったかと思うと、目の前には十代目のドアップが。

(え、えっ…えええーー!?)

「も、もぅしない…からっ」

俯いてボソボソ喋る十代目は耳まで真っ赤になっていた。

「じゅ、じゅうだいめーー!!」

「うっ、わぁ!」

俺は十代目に抱きつき、頬擦りをした。

「く、くすぐったいよ!獄寺君。」

「十代目ぇぇー!!」

「ふふっ、このほうが獄寺君らしいや。」

言うと十代目はキュッと俺の体を抱きしめてくれた。

聞こえる鼓動はトクントクンと心地が良いもので、ずっと俺はこの場所に居たいと思った。

また見つけた。
もう一つ見つけた。


俺の居場所。


END

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