短編
□君へ〜桜ロック〜
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「恭弥さん、桜、見に行きませんか?」
ー会いたくて
ー恋しくて
離れていった
ーーあの日はもう来ない
十年後
畳で作られた純和風の部屋にトコトコと足音を立てて、こちらに向かってくる。
その足音を聞いただけで僕の恋人、沢田綱吉だと脳が認識する。
扉を開けるなり、冒頭の言葉を発した。
「ん〜綺麗ですね!恭弥さん」
「うん、そうだね。」
綱吉が何故並盛中学に植えてある数本の桜を見に来たのかは分からないが、今はちょうど見ごろを迎え、八分咲きっといった所だろうか。
うん、本当に綺麗だ。
「懐かしいですね。ここに桜が咲くたび、季節が回ってるんだなって実感します。」
綱吉は桜を見上げながら手を伸ばすと、手の中には1枚の花びらが落ちてきた。
その手をぎゅっと握り、花びらを潰すと、くしゃりと潰れた花びらが風の中で舞い踊る。
「俺、恭弥さんに初めて恋をしたんです。」
ー僕もだよ。
「何もかもが新鮮で輝いてて…門限破っても応接室で一緒にいましたね」
ー君はいつもあの赤ん坊に怒られてたっけ。
綱吉は先ほど潰した花びらを見つめながら、ポツリポツリと呟いた。
いつものようにふわりと笑う姿は十年前と何も変わっていない。
だけど拳を何故かぎゅっと握り締め、少し震えていた。
「恭弥さん!」
視線をこちらに向けたかと思うと急に走り出し、またピタッと止まってこちらにまた視線を向けた。
少し距離を取られたことの意味が分からず、見つめていると綱吉が口を開いた。
「本当に…本当に沢山の幸せをありがとうございました。そしてごめんなさい。…−−−−。」
サァァ…と春風が邪魔をして最後を聞きとれなかった。
(今…何て?)
だけど口の動きや表情から、聞き取れなかった言葉を僕は目で拾っていた。
それでも僕は’さよなら’じゃないと願った。
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