短編
□変化
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「…じゅう、だいめ」
獄寺君は優しい手で俺の顔を掬い上げ、綺麗な手で俺の涙を拭ってくれた。
彼の顔は酷く辛い顔をしていて、俺は後悔をした。
そんな顔をさせたい訳じゃなかった。
「ご、めん…っ、やっぱ忘れて。」
と言っても、もう言葉は彼の心に刻まれているから、彼が忘れない限り残ってしまうけど、それでも言わなければ気がすまなかった。
「…」
彼は何にも言わないで俺をふわりと抱きしめた。
ここが商店街の真ん中なんて、気にもとめなかった。
「十代目が忘れて欲しいとおっしゃるなら、忘れます。でも、先ほどの言葉は本音ですよね?」
「…っ」
「責めてる訳じゃないですよ。逆に、俺は嬉しいんです。」
「…え?」
彼は俺を抱いていた腕をそっと離し、優しく俺の髪を撫でた。
「昔の俺は、十代目の意見を聞かず自分勝手だったと、最近になって後悔をしていたんです。
だからこれからは、十代目の意思をちゃんと聞いて、それから行動しようと、決めたんです。
でも、それは十代目を苦しませる結果になってしまった。
本当に申し訳ないです。」
「…違っ」
「こんな事言わせる為に言ったんじゃないって思ってますか?
分かってます。十代目はそんなお方じゃないのも十分承知です。
違うんです、俺が言いたいんです。」
「…」
俺は何も言えなかった。
獄寺君がそんな事を思っていたなんて、予想もしていなかった。
「結局、俺は自分の事しか考えてなくて、獄寺君が何考えてるかとか、思ってもみなかった。
…俺自分の事が嫌いだ。」
「…そんな事言わないで下さい。例え十代目でも、十代目の事を嫌いと言う奴は許しませんよ!」
見上げると、獄寺君はいつもの笑顔に戻っていた。
吊られて俺も笑顔になると、そうだっと言って彼は俺の腕を引っ張った。
「今日本当はしたいことがあったんッスよ!行きましょう!」
「へ!?ってちょっと待って、獄寺君!」
腕を引かれフラフラになりながら辿り着いた場所は、並盛神社だった。
もう時刻は七時で、夏と言っても空は暗く星が顔を出していた。
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