短編
□お洒落より
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店員は目の前の人物に怯えていた。
当たり前だ。目の前には並盛最強の男がいるのだから。
この男を前にし、普通でいられる人間なんて数少ないであろう。
かれこれ5分程前、学ランを靡かせた男「雲雀恭弥」がお店にやってきた。
この店は商店街の中でも随一の高級ブティック。
学生が少し働いたくらいで買えるような品物は置いていない。
だが、なんと言おうとやってきたのだ。
この、目の前の彼は。
「聞こえてる?」
「はっ、はいぃぃ!!」
雲雀は眉間に皺を寄せ、明らかに不機嫌な表情をした。
それを見て店員は更に怯えた。
「だから、コーディネートしろって言ってるだろ。」
そうなのだ。
彼はお店にいる客を全て帰らせ、そして一人の男性店員に愛用のトンファーを取り出し、いきなりコーディネートをしろと言ってきたのだ。
もちろんその男性店員以外のスタッフも逃げ出していた。
高級なショップの店員だ。
接客を出来なければクビになる。
いろんな専門用語やファッションポイントも抑えているつもりだ。
だが、この彼にコーディネートなど出来るはずもない。
もし彼が気に入らなかったコーディネートを勧めると、今彼の手に持っている愛用の武器が自身に降りかかるであろう。
かと言って、断れるはずもない。
「ど、どういうのがお好みで…?」
「綱吉が好きそうな格好。」
知るか!
と思わず声が出そうになったが、どうにか堪えた。
綱吉という子は並盛でも有名で、彼の恋人だと聞いたことがある。
本当だったんだ…。
と、そんな事実に驚く暇もなく、先ほど彼が発した言葉の答えが分かるはずもない、と焦りに変わった。
当たり障りのないシンプルでいくか。
いや、実は綱吉という子は派手めが好きかもしれない。
もう頭の中はぐるぐるで、ぐちゃぐちゃだった。
「何、出来ないの?」
ふと顔を上げると殺気を含んだ目とバチリと合う。
ああ、もうどうせ咬み殺されるんだったら、やるだけやってやろうじゃないか。
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