短編

□登り、下り
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優しく手を引かれた先にはまた綱吉を喜ばせるような、懐かしいものが置いてあった。

「わ、わ!こたつだー!」

文字通りてぽてぽと走って綱吉は温かいこたつへといそいそと体を埋めた。
これがマフィアのトップ、ボンゴレボスの顔だろうか。
何かを決意するとき、仲間を守る時は口を挟めないほどのオーラを出すというのに、普段はこんなに子供で可愛いものだから、雲雀はたまったもんじゃない。
雲雀もゆっくりと歩いて綱吉と共にこたつへ入る。

「ヒバリさん、これどうしたんですか?」

「日本から取り寄せたんだよ。」

そのあとの言葉は君の為に、が続くのだが口には出してやらない。
綱吉にもその言葉続きが分かってしまったのか、また顔を赤く染める。
それを見られたくないのか、こたつをガバリとかぶり、そおっと目だけだしこちらの表情を覗っている。
まるで子供…いや小動物だ。
雲雀はクスリと笑った。

「ねえ、机の上の物も見た?」

そう言われもぞもぞとこたつから上半身を出し、机の上の物を見た綱吉はぱあっと笑顔になった。

「みかん!」

目を輝かせた綱吉はこたつの机の上にある蜜柑を一つ取り、花が咲くように綺麗に剥いて一口含む。
ふにゃりと笑い美味しいです、という綱吉は心底可愛いと思った。
あまりにも美味しそうに食べるから雲雀も欲しくなり、手を伸ばして蜜柑を一つ取った。
綱吉と違って乱暴に皮を剥くが、白い繊維は丁寧に取り除く。
そんな雲雀を見た綱吉はムッと機嫌が悪い顔をした。

「ヒバリさん、その白いのに栄養があるんですよ。」

「そんなの知らない。」

注意しても尚白い繊維を剥き続ける雲雀に、らしいと思った。
昔から何事にも大雑把なのに、人が気にしないような所は細かいのだ。
まだ付き合い始めの頃、応接室の扉を半開きにした事があって、開けたら閉める!と母のように怒られたっけ。

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