短編

□うそのうら
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「君なんて嫌いだよ。」

「…は、はあ。」

いきなりお呼び出しをされて、ドアを開けて初めの一言に適当に返事をした。
大体この人の考えてる事なんて分からないんだ。
最近よくこんな感じでお呼び出しをされるけど、特に用事もないらしく、無言が続く。
美味しそうな香りを出す紅茶を毎度出してもらってありがたいけれど、美味しいけれど、何か喋って欲しいと常に思う。
たまにトンファーで小突かれたり、一緒に隣で紅茶を飲んだり。
いい天気だねなんて続かない会話を投げかけられたりする。

「君なんて嫌い、大嫌い。」

応接室に特別呼ばれるのは俺くらいなもんで、他のみんなは応接室の前すら通ったこともない。
だから少なからず好かれていると思っていたのに。
真っすぐ目を見つめられ、嫌いと言われればどんな相手であろうとショックは受けるものだ。
別に雲雀さんの事を好きなんかじゃなかった。
呼び出しても何も話さなくて気まずいし、殴るし叩くし。
だから好きなんかじゃない。
たまに見せる笑顔にドキリとしたり、偶然触れた手が暖かくてビックリしたりしたけど、決して好きなんかじゃない。

「そう…ですか。」

だから肩を落とすことなんて何にもないのに、どうしてこんなにも凹んでしまうんだろう。
そんな様子を見た雲雀さんはクスリと一つ笑っていつものように家まで送ってくれた。

送ってくれるのはいつものことで、帰り道は無言が多い。
前送ってくれた時、雲雀さんの足元に猫が寄り添ってきてて、咬み殺すんじゃないかとドキドキしたけど、そうじゃなくて雲雀さんは猫を抱き上げ人差し指の腹で眉間をよしよししてあげてた。
猫はゴロゴロと喉を鳴らし、ニーと鳴いて喜んでたことがあったっけ。
あの瞬間雲雀さんの違う一面が知れて、なんだか嬉しかったのを覚えてる。
…なんでかは分からないけれど。

「沢田。」

いつの間にか家の前に着いていたらしく、はっと顔を上げた。
そこには無表情の雲雀さんのアップがあって、驚いて後ろにこけそうになった。

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