短編

□あまえたいの
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行きにはあんな物はなかったし、あったら必ず気付く程それは目立っていた。
だって箱の中には小さな子猫が居たのだから。

「なァー」

愛媛産のみかんの箱には黒く小さな子猫が一匹雨の中で震えていた。
屈んで傘の中に入れてやると子猫は上を見、綱吉を見つめてきた。

「お前捨てられたの?」

こんな寒い冷たい雨の日に、こんな所に捨てられたのだろうか。
なんて人間は勝手なんだと思った。
聞いてることが分かるのか分からないのか(多分後者であろうが)鳴き続けている。
可哀想だから連れて帰ってあげたいが、家にはチビ達がいるし、それに母さんは猫アレルギーなのだ。
四年に一度くらいのペースでしか帰ってこない父さんが昔そう言ってた。
猫アレルギーがどんな症状なのかは知らないが、母さんが苦しむことは出来ない。
かといってこの猫を放ってはおけなくて。

「ごめんね。」

猫の上に傘が掛かるように置き、その場を立ち去った。
飼ってあげることは出来ないから傘をあげた。
幸いこの場所から家までは数十メートルほどだから、走って帰ればあまり濡れずに帰れた。
水たまりを踏めば先ほど同様靴下に水が染み冷たかったが、あの猫に比べたらこんな冷たさなど比ではないと思う。
可哀想だけど、自分には何も出来ない。
並盛には優しい人が大勢いるから、あんなに可愛いんだ、他の誰かが飼ってくれるに違いない。
そう思い込み、俺は家に帰ると食事を普通に食べお風呂に入り、布団に入った。

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