パラブルストーリー


□深紅の花咲く光の丘で
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 『聖夜祭休暇』

 明日から始まる、7日間の休暇はそんなふうに呼ばれる。
 毎年寒さの厳しくなるこの季節、年末から新年にかけて行われる『聖夜祭』。その期間中の長期休暇が聖夜祭休暇だ。

 ここ、フィラメントの街は世界の西端に位置する、普段は人の数も多くない田舎街だが、聖夜祭休暇ともなれば沢山の人が旅行や帰郷で訪れる。
 アルティリカが街の大通りに出ると、そこはいつも以上の人混みでごった返していた。
 茶色レンガを敷き詰めた道の脇には、魔法灯がきっちりと等間隔で並び、オレンジの暖かな光を落としている。
 通りに沿うように、赤やオレンジのレンガ造りの店舗が軒を連ね、それぞれのショーウインドウを綺麗に飾っていた。
 空からは、雪と見間違うような光の粉が降り注ぐ。
 初めのうちはショーウインドウを覗き込んだりしていたアルティリカだったが、ガラスに反射した自分の顔はどうにも情けなく、途中から周りには目もくれずひたすら大通りを歩きだした。
 彼女は客引きをする店舗の前を素通りして、幸せそうな恋人たちや家族連れとすれ違って、一直線に通りの終わりを目指した。

 フィラメント第三魔法学校の学生寮は、土地の広さの問題から、学校とは離れた住宅街の片隅にある。寮から通う生徒は、毎日学校までの道のりを、混雑する大通りを突っ切っていかなければならない。
 遠回りも出来ないことはないが、わざわざ歩く距離を増やしたくなかったアルティリカはまっすぐ帰ってきた。

「あぁアルティリカ、お帰り」

 エントランスをくぐると、キーナさんがアルティリカを迎えてくれた。彼女はたったひとりでこの寮の全てをやりくりしている寮母だ。掃除に洗濯、食事の準備も食器洗いも、全てを魔法で、しかも同時進行でこなす凄腕の魔法使いでもある。

「明日は寮閉めちゃうんだから、ちゃんと荷物纏めておいてね。それと、夕飯出来てるよ」

 キーナさんはしゃきしゃきと言って、食堂のほうへと消える。彼女の背中に「はーい」と返事をしながら、アルティリカは内心ため息をついた。

 そう、彼女の目下の悩みは、明日から6日間、聖夜祭休暇最終日の朝まで寮が閉鎖されてしまうことにあった。
 去年まではそんなことはなかったのだが、今年から運営方針が変わったらしい。もっともほとんどの生徒は休暇中に帰郷しているため、この新システムに困っているのはアルティリカただひとりだった。
 帰る家も、家族親戚もないアルティリカにとって嫌がらせのような1週間が明日から始まろうとしている。


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