パラブルストーリー
□深紅の花咲く光の丘で
6ページ/8ページ
◆
行き先は、と訊かれてアルティリカは「アースガルズ」と答えた。すると隣を歩いていた青年は急に立ち止まった。
「……方向違うぞ?」
「えぇっ!?」
そんな……。だってずっと東だけを目指して歩いてきたはずなのに。
「地図、持ってないのか」
「うん……」
「コンパスも」
「うん……」
はぁ、と青年は大きくため息をついた。じろり、頭ひとつと半分ほども下にあるアルティリカの顔を呆れ顔で睨み下ろして、よくこんなとこまで来れたなと呟いた。
「魔法学校の生徒だって言ったな」
青年がふいにそんなことを訊いてきて、アルティリカは不思議に思いながらも頷く。すると、彼はため息をついて一言、「魔法磁針出せばいいだろ」呆れたふうに言った。その言葉に、アルティリカはあっと声を上げて、
「そっか、そうすればっ」
早速目を綴じて、意識を集中させる。大丈夫、大丈夫、この魔法は昨日失敗した「フラム」よりずっと簡単だ。落ち着いてやればできるはず。
「カルトゥ!」
詠唱に応じて、薄紫の呪文式が磁針の形をとる、はずだったのだが……
「馬鹿お前、何すん――」
制止に入ろうとした青年の手が届く前に、呪文式は乱れてイビツな形の螺旋を描いて高速回転を始める。「ちっ」魔法のキャンセルがもはや手遅れであると悟った青年は、「わぁっ!?」アルティリカを抱えて暴走する呪文式から離れた。
その、わずか3秒後。
ガガガガガガガッ!
呪文式から発生した尖った刃物のような鋭い小石が、直前までアルティリカのいた辺りに放射状に降り注ぐ。
「……ピエールだな、あれ」
発動した魔法の呪文名を呟いてから、青年は脇に抱えたアルティリカをもう一度睨み下ろした。
わりと整った容貌の青年の、しかも高い位置からの睨み顔はそれなりに迫力がある。「…………」アルティリカはすぐに耐えられなくなって視線をそらした。
「言えよ。魔法が下手なら」
「……ごめん」
アルティリカを下ろして、青年は右手を差し出す。次の瞬間、魔法磁針がぽうっと彼の手のひらに浮かび上がった。無言詠唱だ。
「わぁ……」
アルティリカは感嘆の声を上げて、けれどすぐに釈然としない表情を作った。
「こんなに魔法が上手なら最初からやってくれればよかったのに」
「俺はあんまり魔法使いたくないの」
青年はやれやれと言うようにため息まじりに呟いてから、
「まあいいや、行くぞ」
すたすたと歩いていってしまう。アルティリカは慌ててその後ろを追いかけた。