パラブルストーリー
□鍛冶屋と魔術師
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「シエルはエルフなの?」
雲の上の街、アルフヘイムで聖夜祭休暇4日目を迎えたアルティリカは、ふと気になって、テーブルを挟んで向かい側に座る男に訊ねた。ヒースの友人であり、この家の主である男――シエルは「そうだよ」と簡単に答えた。
「ふぅん」
アルティリカはシエルをまじまじと観察した。ターコイズブルーの、毛先にかけて緑のグラデーションがかかった不思議な髪以外、普通の人間とあまり変わらないように思う。
アルティリカにとってエルフは「綺麗な女の人」のイメージだったが、目の前のシエルは「綺麗な男の人」だった。
木製の椅子に座って、テーブルに顎を乗っける。そのまま手持ち無沙汰に足をぶらぶら振っていると、奥の部屋からヒースが入ってきてアルティリカの隣に座った。
「アルト」
呼ばれてヒースのほうを見ると、彼の手に赤色の細いリボンがあった。「……?」首を傾げているアルティリカを見て、ヒースはそれを彼女の髪の左側に結わいた。
「なに、これ?」
「お守り。シエルに作ってもらった」
アルティリカがシエルのほうを見ると、にこにこ顔で「魔法を込めたのはヒースだけどね」と言った。
「魔法?」
もう一度ヒースのほうに向き直る。すると彼は、「やってみりゃ分かる」とアルティリカを椅子から立たせた。
「魔法、なんかやってみな」
そう言われたので、アルティリカは少し考えてから、右手を突きだし、意識を集中させて「フラム!」鋭く詠唱した。
紫の呪文式が一瞬現れて、
――ぽうっ
アルティリカの手のひらに、小さな火が灯った。今まで何度やっても出来なかった魔法が、いとも簡単に出現した。
「わっ出来た!」
目を輝かせて喜んだアルティリカを見て、ヒースとシエルは目を細めた。