パラブルストーリー


□鍛冶屋と魔術師
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 「見るな」と言われてしまえば余計気になってしまうのが人の性というヤツだ。

(ちょっとだけならいいよね……)

 アルティリカは完全に好奇心に負けてしまった。オレンジの暖かな光が揺らめくシエルの仕事部屋へと、抜き足差し足でそっと近付く。
 扉のない部屋の奥から、カン、カンと金属を叩く音がする。どうやら鍛冶仕事をしているようだ。
 入口近くで身を乗り出して部屋の中を覗いたアルティリカは、

「…………っ!?」

 言葉を失って固まってしまった。
 そこにあったのは、狂気。燃えたぎる鉄を打つシエルの横顔は、この暑い部屋に居ても背筋が凍りつくような、狂気の塊だった。目をカッと見開き、口の端を悪魔のように吊り上げ、ひたすらに槌を振り下ろす。

「本当にあいつをいい奴と思いたいなら、仕事中のあいつを見ない方がいい」

 先ほどのヒースの言葉が脳裏をかすめる。ぶんぶんと首を振って先ほど見た光景を頭から追い払って、何も見なかったことにしてアルティリカはその場をそっと離れた。







 黙って自分の隣に座ったアルティリカが妙に固まっているのを見て、ヒースは「見たな」とため息をついた。

「だって気になっちゃったんだもん……」

 いまいち覇気のない彼女は、相当ショックだったのだろう。青ざめた顔で俯いている。「あー……」どうフォローしたものかとしばらく考えたヒースは、

「あんなんになるのは仕事中だけだから」

 そんなことを言ったが、あまりフォローになっていない。そのことがちょっぴり可笑しかったアルティリカは、「うん」緊張が少しほぐれた様子で頷いた。


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