パラブルストーリー


□鍛冶屋と魔術師
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「明日、アースガルズ行くぞ」

 なんの前触れもなく、ヒースは言った。雲の上のアルフヘイムがひどく新鮮な世界で、本来の行き先を忘れかけていたアルティリカはあっと声を上げてから、少し考えた。
 今日は休暇の5日目だ。あと残り2日で、大陸ど真ん中のアースガルズに行って最果てのフィラメントに戻るなんて、無理な話ではないだろうか。
 そんなアルティリカの心配を察したように、ヒースは「空間転移魔法使えば一瞬だから」、あっさりとそう言ってのけた。

「え?でも魔法あんまり使いたくないって……」
「いいよ、もう。ここまで付き合わせたのは俺だし」

 面倒くさそうに言うわりに、ちょっぴり生真面目なヒースがなんだか可笑しかった。ぶっきらぼうな口調で突き放すように振る舞うのに、根は優しいひとなのだ。
 シエルが言った通りのひねくれ者だけれど、ヒースは見た目に拠らずお人好しなんだと、アルティリカはそう思った。







「もう行くの?」

 シエルの声に、アルティリカは一瞬びくりとしてしまった。昨日見た光景が脳裏に甦りかけて、慌ててぶんぶんと首を振る。

「何やってんのお前」

 ヒースが呆れ顔で訊いてきたけれど、彼はアルティリカの心情を汲み取って、彼女のちいさな手をきゅっと握ってくれた。
 シエルもまた察したようで、

「あぁ……。怖がらせちゃってごめんね。俺、仕事のことになると周りが見えなくなるから……」

 困った風に頬を掻く。ああ、やっぱりシエルはいいひとだ。アルティリカは「ううん」と精一杯首を横に振った。


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