パラブルストーリー
□深紅の花咲く光の丘で
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フィラメント第三魔法学校には、大がかりな魔法演習を行うための、石造りの立派な練習場がある。
内部も広く、床部分にはらくだ色の砂が堅く敷き詰められている。その上に、アルティリカは立っていた。
「…………」
眼を綴じ、意識を集中させる。やがてぱっと眼を開き、鋭く右手を突きだした。
「フラム!」
詠唱と同時に薄紫の呪文式が、突きだした手のひらの上で揺らめく。すぐに螺旋状に渦巻きはじめ、加速する。
わずかな風が生まれて、アルティリカの短くて真っ白な髪を揺らす。
ややもしないうちに呪文式は紫色の球になって、輝きはじめる。そして――
ぷしゅうっ……
間抜けな音をたててしぼんでしまった。呪文式はすぐに掻き消えて、風も収まる。
もとの静寂が、練習場に侘しく漂う。
「そんなんじゃ休み明けの卒業試験に落ちるよ」
背中から声が上がって、アルティリカは一瞬ぎしりと固まった。
いつの間に現れたのか、彼女の背後でひとりの魔女が、宙に浮いた箒の上で脚を組んで座っていた。
「フラムなんて基本中の基本なのにねぇ。あんたは一体いつになったらできるようになるのかなぁー?」
彼女は間延びした呆れ声で言って、困ったふうに長い髪を掻き上げる。
「ローランド先生」
クロエ・ローランド。黒髪に黒い瞳、学校指定の教員用ローブもカラスみたいに黒い。真っ黒黒で陰気な印象が漂ってもおかしくないのに、だぼだぼのセンスのないローブも彼女はきっちりと着こなしてしまう。ずるい。
それでいて美貌を鼻にかけないサバサバとした性格で人気の先生だ。
それに比べて自分は身寄りもなくて、援助金で学校に行かせてもらっているのに基礎魔法すらおぼつかない落ちこぼれ。たいして可愛くもなければ特別スレンダーなわけでもない。いたって平均的な女の子。
世の中というのは不公平だと思う。
「試験が不安なのはわかるけど、もう練習場閉めちゃうよ。練習は休み明けにしなさいね」
ローランド先生に追い立てられて渋々外へ出ると、夕暮れの空からキラキラと光の粉が降っていた。
「休み、かぁ……」
アルティリカはちいさく呟いた。