パラブルストーリー


□妖精の住む街
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 聖夜祭休暇2日目の朝。
 雲ひとつない青空の下、石造りの建物が太陽の光を受けて白く輝く。
 まだ早い時間帯だったが、休暇中ということもあってか、通りには人の姿がちらほら見える。魔法列車の運行も始まっていて、時々汽笛を鳴らしている。
 そんな清々しい朝の、とある安宿のとある一室に、

「えぇーっ!?」

 アルティリカの絶叫が響き渡った。至近距離でそれを聞かされたヒースは、「うるさい……」顔をしかめて身を引いて、アルティリカもはっとして口をつぐんだ。少し声のトーンを落とす。

「なんでなんでっ?」
「なんでも何も……、俺はここまで送ってやっただけで別にお前の旅行に付き合うなんて言ってない」

 ヒースは口をへの字に曲げて言う。アルティリカは信じられないというような顔で呆然としていた。

「ここからなら迷うこともないだろ。列車乗り継いでけばアースガルズまで行ける」

 じゃあそう言うことで。ヒースはアルティリカに背を向けようとして、「なっ……」彼女の顔を見て絶句した。

「うぅ……ぅ……」

 アルティリカは目に涙をいっぱいに溜めて、うるうるした瞳でこっちを見ている。

「急に泣くなよ」
「泣いてないもん」
「…………。あのなぁ、」
「……信じてたのに」
「勝手に信じるなよ……。ていうかそういう問題じゃ――」
「だめ?」
「……だめ」
「どうしても?」
「…………」

 うるうるうるうる。アルティリカの潤んだ瞳攻撃についに耐えられなくなって、ヒースは目をそらしてため息をついた。

「……アースガルズまでだぞ」
「やったっ!」

 こっちが折れた瞬間に涙ひっこめやがった。畜生、負けた。……もういいや。
 もはや色々と諦めた様子で、ヒースは荷物を持ち上げた。なんだかずっしりと重くなった気がする。――気のせいだけれど。

「列車乗るぞ。早くしないと置いてくからな」
「わっ待って」

 わざと少しだけ早足で歩く。後ろからパタパタと駆けてくる音が聞こえた。
 まあいいか。こういうのも久しぶりだ。1週間で終わる旅行なら、最後まで付き合ってやってもいい。そう思い直して、ヒースは少し歩調を緩めた。

 どうせ、時間は腐るほどある。


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