パラブルストーリー


□鍛冶屋と魔術師
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「何年も顔見せないからさ」

 ふいに、シエルが言った。なんだか楽しそうにアルティリカに向けて語り出す。

「ヒースの浮浪癖は知ってたけど、それでも心配してたんだよ、俺。それで何年か振りに急に現れたと思ったらそのリボン作ってくれって言うからさ、ほんと驚いたよ」
「こいつに余計なこと吹き込むな」

 にこにこ顔で話すシエルに対し、ヒースはぎろりと彼を睨んで、吐き捨てるように言った。

「でも安心したよ。そういうひねくれた所は昔のまんまだ」
「余計なお世話だって言ってんの。俺はただアルトの魔法コントロールがあまりにもお粗末すぎて可哀想で」
「何か言った?」

 アルティリカが訊くと、ヒースはにやりと口の端をつり上げて「何も」と言う。
 これは彼が人をからかうときの顔だ、とアルティリカは直感した。この長い旅行生活で、わりと能面に見えるヒースの微妙な表情の変化が少しずつ分かってきた。
 基本的に無表情か不機嫌そうな顔をしている彼だけれど、時々こうやって、皮肉気味にではあるけれど笑うことがある。それがアルティリカには嬉しかった。――自分がからかわれているのは少し気にくわなかったけれど。

「……ふふっ」

 シエルはそんなふたりを面白そうに眺めて、その場を去った。隣の部屋へと大きな槌を片手に歩いていく彼の背中を負いながら、「シエルっていいひとだね」呟いたアルティリカに、「本当にあいつをいい奴と思いたいなら」ヒースは声のトーンを落として言った。

「仕事中のあいつを見ない方がいい」
「どういう意味?」

 アルティリカが訊ねると、「さぁ」とヒースは意地悪そうににやりと笑う。アルティリカはますます訝しそうに首を傾げた。


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