パラブルストーリー


□辿った先にあるものは
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 形の揃わない歪な石を器用に積んで造られた高い城壁。そのてっぺんに、彼は寝転んで空を見上げていた。
 紫がかった深い紺の空に、砂糖を溢したような光が一筋。
 鈴虫の音を聴きながら、彼は光の筋に手を伸ばす。他人の血に塗れた、真っ赤な手を。届かないとは知りながら、それでもなお、手を伸ばす。
 空を掴んだその手から、滴る紅い水は彼の頬を汚す。
 無表情な彼の無感情な瞳が、一瞬、揺らいだ。それは悲しみか、憎悪か、それとも狂気か。


 紺はやがて青になり、白を従えて夜明けを迎える。鈴虫の音はいつの間にか止み、代わりに鳥のさえずりが静かな世界に響く。
 彼は起き上がり、城壁の高みからその凄惨な光景をひとり見下ろした。
 赤黒く染まった大地。自らの血を土に吸わせた幾千もの骸は、青白い。虫に喰われようが鴉に啄まれようが、ただ無言で臥している。大地には、強大な力で抉られた傷跡がいくつもあった。
 地獄のような風景の中、彼はただひとり茫然と佇む。陽の昇った蒼い空を仰ぎ、ニィ、と口の端を吊り上げて狂ったように笑った。


 蒼はやがて橙の夕焼けを迎え、それも終わって元通りの紺の空。
 彼は血塗れた手で刀を抜いた。城壁から飛び降りて、誰かの腐りかけた手を踏んだ。構えた刀を突き付ける敵の姿は、そこには無い。自嘲じみた笑いを残して、彼は歩きだす。
 行き先は、解らない。

「俺ァ結局、何も護れやしねぇ」

 その言葉を聴く者は、誰もいない。


―― several hundred years ago 


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