七
□高機動幻想GPM〜鬼士と闇姫〜
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西暦1945年、第二次世界大戦は意外な形で幕を閉じた。黒い月の出現、そしてそれに伴った人類の天敵…幻獣の出現である。
虚空から現れ、人を殺し、人が作った物を破壊し、そして虚空へと消える幻獣に人類はなす術無く駆逐され、急激にその居住範囲を狭めていった…。
それから約半世紀…戦いは未だに、続いている…………。
高機動幻想GPM異伝
〜鬼士と闇姫〜
プロローグ
1997年9月、長崎県対馬……幻獣に制圧されたユーラシア大陸から伸びている朝鮮半島、そこに程近い小さな一対の島…今、その島は血と硝煙が充満していた。
ユーラシア大陸から日本へと侵攻しようと次々に小型幻獣「ゴブリン」と「ゴブリンリーダー」を大型幻獣「リヴァイアサン」の背に乗せて送り込んでくる幻獣。その数は既に1万を越えた。
典型的な飽和攻撃…絶望的なまでの数の暴力に飲み込まれる人類…至る所で繰り広げられる凄惨な殺戮劇……そんな戦場の片隅で、一人の中性的な若い鬼が瀕死の仲間を抱き抱えていた…。
『……君すらも僕を置いて逝くんだね…』
「ヤタ………出来れ…もっ…側…ガフッ…おま…の…側に…すま…な……」
黒い肌の男は愛おしげに、名残惜しげに鬼の頬を撫で、力尽きる。
「百翼長、お気持ちは痛い程わかりますが…撤退の時刻が迫ってます、お早く」
その後ろから冷徹な声で鬼に言葉をかけるのは、戦場には些か不似合いな金の巻き髪の美女。しかし、鬼は男の遺骸をかき抱いたまま動こうとしない。
「残念ですが、北風に彼を積む余裕は…」
『わかっているっ…』
静かにではあるが、血を吐くような声で返事をしながら男からバンダナを取り、ドッグタグを折り取り、梵字が所狭しと書かれた札を遺骸に乗せる若い鬼。
『さよなら……添い遂げたいと思える男は貴様ぐらいだったよ。』
悲哀の色は浮かべども、涙は流さぬ若き鬼。幾度迎えた死別に飽いて、流す心を無くしたか。はたまた既に枯れ果てて、流す涙を無くしたか。果ても見えざる戦の世、流され生きる鬼一人。これはかような鬼人(おにびと)の、闇の姫との物語………。