半熟×検索


□先ずは何て言う?
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○恵方巻きネタ〜遅いとか言っちゃ駄目〜


「ただいま〜」

ハァ…、と溜め息をつきながらドアを開けた翔太郎に、フィリップは振り返って笑顔を向ける。

「お帰り。」


「……」

スタスタスタスタ…

「? どうしたんだい?翔太ろ……」

―ムギュウ!

「ぅわ///な、なに!?」

「いやー…やっぱ帰って来てお前がいると違うわ……うん。ただいま、フィリップ。」

ちゅ、

「ん、」


額にキスを送った翔太郎の気持ちを察したのか、フィリップは微笑んだ。

「…今日は甘えたい気分なのかい?」

「そうかもな?」

翔太郎も照れくさそうに鼻を擦った。





「で、だ。お前ならもう分かってると思うんだけど……」

「立春。」

「そう。で…」

「恵方巻きだね?」


「…言うまでも無かったな。」

そう言って笑った翔太郎は「はい、これお前の分」とフィリップに恵方巻きを手渡した。


「おぉ…これが恵方巻き……」

「あれ?お前初めてだっけか?」

「あぁ。去年はお金が無いからって、カッパ巻きだったじゃないか。」

「………ごめん。」


申し訳なさそうに頭を下げた翔太郎をヨシヨシしながらフィリップは恵方巻きを眺める。

「…これ……」

「ん?」

「恵方巻きって、一度食し始めたら、終わるまで声を発してはいけないんだろう?」

「さすが。よく調べてんじゃねぇかっ」

「………」

「ん?なんかあんのか?」

「…いや…。……」

「……フィリップ?」


フィリップは不安そうに目を伏せてしっまった。



―あー… なるほど。


心の中で頷くと、翔太郎はフィリップの左手を握ってやった。

「ぁ……、翔太郎…」


「なぁ、フィリップ、」

「…なんだい?」



「…………、」

それきり翔太郎から声が発せられる事は無かった。

すでに翔太郎はそっぽを向いて、ひたすらに恵方巻きを頬張り始めている。


「翔太郎……」

名前を呼んで、握られた手を握り返す。


「むぐっ!?」

すると翔太郎は直ぐに振り向いたが、フィリップの口に恵方巻きをグイグイと押し付け、今まで自分が向いていた方角を指差した。

(あっちが"南南東"だ)と言いたいのだろう。

フィリップは口に恵方巻きを含んでしまったので、仕方なく頷き、翔太郎の指差した方向に向かって恵方巻きを食べ始めた。


「………」

「………」

モグモグモグモグ…


「………」

「………」

モグモグ…、


―…話したい。彼の声が聞きたい。

やはり駄目だった。
フィリップの不安は的中した。

―こんなに近くにいるのに口がきけないなんて…

正直、辛い。


―翔太郎…、君は平気なのかい?僕と話が出来なくても。僕だけなのかな…こんなに、君の事を気にしてしまうのは……。何を話そうって訳ではないけれど、…それでも、君との会話は…僕にとっては……、


…モグ、モグ…、

「………、!」

そんなことを考えている時だ。
きゅ、と握った左手に指が絡められたのは。


様子を伺うように顔を上げると、翔太郎はジッとフィリップの瞳を見詰め、そして微笑んだ。

(大丈夫。)

まるでそんな風に言っているように思えた。


―…ぁ、

そこでふと、彼との最後の会話を思い出す。


『なぁ、フィリップ、』

彼はそれきり何も言わなかった。

つまりそれは、


―翔太郎は、僕に、伝えたい事が…ある…?

きっとそれは翔太郎なりの優しさだったのだろう。
話せないという不安の中にいるフィリップに、"お前だけじゃない"と。


――…不器用///

翔太郎の背中に心で悪態をつきながら、フィリップはそっと絡めた指に力を込めた。






モグモグ……

ごくん。



【さぁ、大好きな相棒に
先ずはなんて言ってやろうか?】



「フィリップ」
「翔太郎」




『     』



end


→オキマリ
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