Poem
□ツキのカミ
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月は綺麗と皆が言う。故人はよく月を歌の題に綴ったし、その満ち欠けで時を刻んだのが時間の始まりだともいう。
「月の内側には何があるんだ」
「何がある何もない何もないに決まっておろうが」
古き亀は彼を嘲笑った。つぶらな瞳と裂けた口には、彼は見向きもしなかった。
彼は眠っていた。まどろみ目を閉じ夢を掻く中で、彼の前にその古き亀は現れたのだ。
「でも俺は時々さ、思うんだけど、月とかってただ丸いだけじゃないんだよな」
「何を言う関係などない、ただ月は月であるから我らはそれに従っただけ」
彼は目を閉じた。
「出産は満月の夜だものな」
「然り然り、月という名も知らぬただ我らは月に従うものに従うのみ」
「でも俺は、然り然りとは言えないんだよなぁ。なぁここだけの話」
亀は首を引っ込めた。
「時々見えるんだ俺。雲にも影は出来るし、太陽は小さいが、ただの赤い穴じゃなくてさ。丸い球体で、立体なんだって思ってさ。
だから何か、ちゃんと雲の上に太陽があるんだって思うわけで。
そうしたら、雲は確かに景色じゃなくて在るわけで、俺は雲の下側じゃなくて上側を見たいって思ったんだよ」
「然らず太陽に従え月に従え我らの意思を解さぬのと同様人間お主は解せぬ」
「そっか」
彼は首を傾げた。
「ごめんな」
亀は、泡になって溶けた。そこで夢は閉じた。