Long
□ありがとう
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「急げ急げ急げっ」
枝を突き倒し、雪を掻き分けて山の下りを進むティーに、シューはほうほうの態でついてゆく。
なんとなく、分かってはいたが。
このまま山を抜ければ、そこから街が始まる。
先に戦火を帯びたのは海岸添いの暮らしであるから、山に近い側の店はその分も併せて、
いつもよりも盛んに機能している事だろう。
そして、そこを抜ければ一面は海。停泊している船もよく見えるはずだ。
「待てって…!お前、船を見に行くってんだろ!?」
「何が悪い!?ティー嫌なら先帰ってて!」
「だからっ…」
ああもう、と言いながら、それでも学者はついてゆく。
少し位休んでもいいのでは、そんな思いは多分、ティーの目には野暮に映ることだろう。
「抜けたっ」
叫ぶティーの周囲からは、一瞬で木々が消えた。森を抜けたのだ。向こう側に点々と見えるのは、蠢く人々と建物だ。
「あぁもう、何も無くなりはしないと…!」
「いゃっっほぉぉっ!!」
実は、先程受けた扱いなどとうに忘れている。
それに今は、完璧に人の姿なのだ。今さら何を恐がられようか。
そんなこんなで、ティーは街に飛び込むと、
好奇心剥き出しの表情で、水入りの桶を運んでいた主婦に声をかけた。
「ねえここサクラだよね?」