人類最強の兵長と。

□Another side story
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晴天の下、森の木々の間を駆け抜ける二つの影。森の動物たちを追い越して飛ぶその二つの影は、まるで競争しているのか、互いに負けじと全速力で通り抜ける。アンカーが木に次々と刺さり、ワイヤーの伸縮を使って、少女の身体が加速する。


隣の影は、それを確認して速度を上げた。腰に付けられた装置と、手に握るトリガーを扱う少女は、まだ幼い面影を残し、無邪気に笑っている。

そんな少女の隣を飛びまわるのは、一匹の大きな鷹だった。

『リオル!お願い!』

彼女の掛け声とともに、鷹が一気に空高く舞い上がった。そして少女もそれについて行くかのようにワイヤーを最大限に伸ばして木に刺し、その反動で空へと飛びあがった。太陽光を浴びて、色素の薄い金色の髪が透けて輝く。少女の一つに結ばれた髪が、空中で馬の尻尾のように跳ねあがった。

空に向かって手を伸ばし、うんと背伸びした少女は、満足そうに笑った。しかし、それも一瞬のこと。重力により、彼女の舞い上がった体は地面へと向かって行く。その瞬間、二メートルほどもあろう鷹が、少女の腕を掴み、飛び上がった。

森の木々よりも高い位置を飛ぶ彼女の腕には、細い鎖が何重にも巻かれており、鷹は、そこを掴んでいた。主人を離さぬようにと渾身の力を込めて羽ばたく鷹を余所に、主人は高所から見える景色を眺めて喜んでいる。やれやれ、とでも言いたげな鷹は、それでも誇らしげに胸を張った。

『あれが、壁か…。』

ウォール・シーナ内の小さな小さな町。周囲を森林に囲まれ、木より高い建物がない田舎町。壁を見たのも、極最近のことだった。こうして鷹と共に飛びあがらなければ、壁を見る事もなく人生を終えていたのかもしれない。この町の自慢できることは、清らかな水と、栄養を豊富に含んだ腐葉土、そして人類最後の「鷹匠」が住んでいることだけだった。

少女は地面に降り立ち、腰にぶら下げていた袋から生肉を取り出し、鷹に差し出した。生肉を満足そうに啄む鷹を、毛並みに沿って撫でる少女。鷹は嬉しそうに喉を鳴らし、彼女の手に寄りそうように羽を動かした。

「ここに居たのか、アリア。立体起動装置の調子はどうじゃ?」

『おじいちゃん!今日も楽しかったよ。ワイヤーの勢いが、前のよりも強くなってるね。』

「ほほ、気付いたか。何せ兵団からより強化してほしいと言われておってのう。年寄りをこき使いよるわい。どうじゃ、トリガーは固くなかったか?」

『うん、大丈夫!前よりもずっと高く飛べたんだ。リオルと競争してたの!』

嬉しそうに話す孫娘の頭を撫でて、老人は微笑んだ。老人の手は節が大きく、ゴツゴツしていた。アリアは、その手が大好きだった。幾多の発明品を残してきたその手。兵団内の開発部を退いてから数年、それでも老人の元には多くの依頼書が届いていた。

「その立体起動装置は、調査兵団も使うんじゃよ。壁外調査で一人でも多くの命が助かるよう、わしも頑張るとするかの…。」

『じゃあ、お父さんもこれ使うんだ…。ふふ、お父さん、早く帰ってこないかなぁ。』

「調査兵団に入ってから、ぴたりと顔を見せんのう。ささ、もう日が暮れる。家に帰って食事にするぞ。」

『はーい。いくよ、リオル。』

少女の掛け声に、鷹は両羽をぶわりと開き、空高く舞い上がった。歩き始めた老人の隣を、アリアも歩く。老人は鷹を見上げ、見事だ、と一言呟いた。

『おじいちゃん?』

「見事な鷹匠になったもんじゃ。人類最後の鷹匠は、アリアじゃのう。」

『ふふっ、リオルとは仲良しだもん!』

 夕陽に照らされる笑顔が、老人の顔をも笑顔に変えた。そして嬉しそうに笑った二人は森林の中にひっそりとたたずむ小さな家へと入っていった。





進撃の巨人 兵長長編連載

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