人類最強の兵長と。

□真面目な顔して考えてます。
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SS「真面目な顔で真面目に考えてます。」






「雷槍の威力、思った以上だったね。全く、中央憲兵があんな技術を隠し持っていたなんて信じられないよ。宝の持ち腐れってやつだ。ねぇリヴァイ?」

「まぁな…。だが、これで新型立体機動装置に次いで新しい武器が手に入ったって訳だ。新兵もアレを使いこなせるように訓練しねぇとな…。エルヴィン、明日からの訓練内容に変更はあるか?」

「明日は通常通りの新型を使った訓練を行う。だが雷槍を量産できるようになれば、すぐにでも訓練を切り替えるつもりだ。」

真面目な顔をして歩く三人を優しく包む夕日。
今日の訓練を終えて兵舎に帰ってきた上官三人は、新たに加わった武器に心を弾ませていた。訓練を終えた兵士達がぞろぞろと食堂に向かう中、その流れを追うようにしてハンジ、リヴァイ、エルヴィンも歩いた。午後の訓練を終えた身体は正直に空腹を訴えているし、時間も時間。

開発部で仕事をしている彼女もきっとそろそろ食堂に向かってくるだろう、と思っていると、思わぬ人だかりに脚を止めることになった。我先にと食堂の中に頭を突っ込もうとする男兵士全員、何故か食堂の中に視線を向けているのだ。だがしかし、誰も中には入っていないようだった。

「…あれ、どうしたんだろう。何かあったのかな。」

「さぁな。さっさと歩け、お前ら。」

「りっ、リヴァイ兵長!ハンジ分隊長に、エルヴィン団長も!!」

ビクッと肩を揺らした兵士達が敬礼し、狼狽える。一体何事だ、とエルヴィンが一歩前に出れば、どんな人だかりであっても道が開けてしまうのだから面白い。リヴァイもハンジもエルヴィンも、食堂の中を真剣な眼差しで見つめている若い兵士たちを退けて、食堂の中に入った。

『…ん、しょっと…。ここにエルヴィン団長、こっちがハンジさん…で、リヴァイ兵士長。』

「ねぇアリアちゃん、次はこっちを運んでちょうだい?」

『あ、はいっ!』

元気よく返事をして食堂のトレイを持って歩いていくアリア。そしてカウンターから差し出された料理を運んでは、テーブルの上にきちんと並べていく。いつもこの時間なら開発部で仕事をしている彼女。どの兵士も、こうして給仕を手伝っている姿を見るのは初めてだった。

これを見ていたのか、とハンジが納得する。

その考えは当たっていた。アリアがこちらに気付かないから、視線を逸らす理由もないとばかりにその姿をじっくりと見つめているエルヴィンとリヴァイ。先ほど男兵士達が食堂に入らずに、入口から顔を覗かせていた理由が分かる。アリアが給仕しているのを止めたくないのだ。ハンジのメガネがきらりと光る。

「…はっはーん…」

にや、と笑って野郎二人の横顔を見る。

二人の視線はもちろんアリアに向けられているのだが、それは彼女が今まで見せたことのない服装で手伝っているから、だろう。二人とも、その姿を真剣な眼差しで見つめたまま何も話さない。

「アリアちゃん、この山菜はどこを切ったら良いのかしらね?食べられるところがどこだったか、忘れてしまったよ。こっちに来て教えてくれるかい?」

『はいっ。』

料理が乗っている皿を運んで、振り返って歩き出した彼女の膝より少し短いスカートがヒラっと揺れた。しかし大きく揺れることはない。それは、彼女が身につけている可愛らしいエプロンがその裾を押さえているからである。

腰で結ばれたリボンが可愛らしく揺れている。
まるで愛くるしい小動物のしっぽのように、男を誘うそのリボン。その少し上で、彼女の金色のポニーテールが揺れるものだから、もう。

見ていて飽きない。むしろ捕まえたい。

男の本能を刺激する「ふわふわ揺れるもの」を身につけて、彼女は包丁を握って手際よく山菜をさばいてしまう。そんな家庭的な面も相まって、リヴァイもエルヴィンも感極まりそうになりながら彼女を見つめている。

『あ…これは、ここの茶色くなりかけている所が苦いので切ってしまって…ここと、この緑のところを…』

「ああ、そうだったねぇ!前にも教えてもらったのに…ヤダよ、年はとりたくないもんねぇ。」

くすくすと笑う婦人に、アリアはにっこりと笑って給仕に戻る。基本的にはアリアが皿を並べたり、料理を並べたりしてこの食堂を彩っているらしい。楽しそうな彼女は、未だ自分を見つめる多くの視線に気付かない。

『早く帰ってきてくれないかな…。冷めちゃう…。』

料理を見つめて、少しだけ寂しそうにアリアが呟く。
視線の先には、ほかほかのポトフ。出来上がったばかりの美味しそうな食事に視線を向ける彼女は、ここに帰ってくる人を心待ちにしているのだ、と表情を見れば分かる。

「く……」
(…クソ可愛いじゃねぇか…!)

リヴァイはぎゅっと目を閉じて、その可愛らしい姿のアリアと、少し寂しげに微笑んでいる表情を胸に焼き付けた。開発部の一員として仕事をしている時の彼女からはかけ離れた、余りにも可愛らしい一面に胸を鷲掴みにされている。

まだ黙ってその姿を見つめているリヴァイとエルヴィンを見て、ハンジは口角を上げてこの上なく楽しそうに微笑んだ。

「ああしてるとさ……自分のお嫁さんになってくれたみたいだね?」

「!」「!」

ビクッと身体を揺らした二人。
ほんのりと妄想していた内容をかき消すかのように頭を振ったリヴァイとエルヴィンが、何のことだ?とシラを切る。しかしどちらも顔は赤く、汗をかいているではないか。

「ば…ばか言ってんじゃねぇよ。んな妄想するか。」

「そ…そうだ。そんな事は考えていない。俺は明日の訓練の事を考えていた。」

「へぇ?じゃあ……ああ、あのエプロン付けてスカート履いた状態で俺の部屋に来てくれないかな…とか。ああ、ああやって毎日俺の食事作ってくれないかな…とか。ああ、あの格好で毎日おかえりなさい、とか言ってくれないかな…とか考えなかったの?」

「…………………考えてねぇ。なぁ…エルヴィン。」

「その長い沈黙は何だい?」

「も、もちろんだ。だがしかし…エプロンか…。確かに給仕するにあたって必要不可欠な物だな。俺は賛成派だが…リヴァイ、お前はどうだ。」

「文句無しだ。衛生面を考えても、あれは在るべきだ。」

「よし…ならアリアには給仕を手伝う際には今日のようにエプロンを身に付けることを義務化しよう。あれを身につける事によって兵士達の士気も上がるに違いない。」

了解した、とリヴァイが真面目な顔で頷き、腕を組む。しかしそれも束の間、給仕する彼女を見つめる視線が鋭くなった。眉間にシワが寄せられる。

「だがエルヴィン、俺はあの下には反対だ。ヒラヒラし過ぎる…丈も短い。脚が見えすぎる。アレは駄目だ。それに見ろ……前から見た時にエプロン丈が一番長くなってやがる。……ってことは、前から見た時にエプロンの下に何も履いていない状態に見えちまう。…だろ?」

「そうだな…確かに脚の表面積を考えた場合に、余りに露出が多い。あれでは防ぎようが無い。…よし、ならばエプロン着用の際には、必ず下にはエプロン丈よりも長い衣服を着用することも義務付けよう。」

「だがエルヴィン…。せっかくの絶景に白布を掛けるのは無粋だと思わないか。普段アイツがあんなに丈の短いスカートを履くことは無い…つまり、このタイミングにしか見られない希少な絶景なわけだ。」

「確かにな……だが、肌の露出が多いのは看過できない。何か良い方法はあるか…」

「靴下はどうだ。膝より少し長い靴下を履かせれば、防寒にもなる。これなら当初の目的のエプロンだけでなく、絶景も守られる。」

「!そ…その手があったか…!」

「何を真面目な顔で馬鹿なこと言ってるんだい?」

よし、と野郎二人が腕を組んで納得する。
するとアリアがこちらに気付き、嬉しそうに駆け寄ってきた。リヴァイとエルヴィンが、思わず姿勢をピンと正してしまう。

『あっ…おかえりなさい!』

「!」「!」

『えっ、ど、どうしたんですか!?!』

「あー、放っておいて良いよ。きっと、グッときたんだろうから。」

キョトン、として目を丸くしているアリア。リヴァイとエルヴィンは何事もなかったかのように食堂に足を踏み入れたつもりだったが、赤くなった顔は二人とも隠せていない。そして団長と兵士長、分隊長が進んだことで、後に控えていた兵士達がなだれ込んできた。

一気に賑やかになった食堂で、アリアが嬉しそうに微笑む。そして自分がいつも座る場所に行けば、当然のようにリヴァイが自分の隣の席を空けて待っていた。テーブルを挟んだ向かい側には、いつものようにハンジとエルヴィンが座っている。

「ねぇアリア、今日はお手伝いしてたの?エプロンまでしちゃってさ。」

『はい、今日はお仕事が早く終わったので…先に食堂に来ていたんです。そしたら手伝ってくれないか、ってこのエプロンとスカートを。』

「えっ、スカートまで?」

『はい、これが制服だと聞いたんですが…』

 ヒラ、と揺れる少し短めのスカート。エルヴィンは制服を指定した覚えは無いのだが、と食堂の奥、調理場に目をやる。リヴァイも何も言わず、不思議そうにエルヴィンの視線の先を追った。
すると二人の視線に気付いた婦人が、誇らしげな表情で親指を立て、グッと力を込めて合図した。

「…俺の目に狂いは無かった。」

「あの婦人を採用したのはお前だ、エルヴィン。よくやった。」

「…リヴァイ、後で婦人に葡萄酒を持って行こう。」

「もちろんだ。臨時ボーナスでも支給してやったらどうだ?」

「ああ、検討しよう。」

『……何かあったんですか?』

「気にしなくて良いんだよ、アリア。二人なりに真面目に考えてるだけだからさ。」





End


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