アイシールド21夢

□冬の小さな悩み事
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「いや、そうじゃなくて、、悪い、悩んでるんだもんな…ただ、その…」


言い繕おうにも頭が真っ白で上手い言葉は全く出てこない。
きっとヒル魔なら舌先三寸で取り繕えるだろうし、水町ならあの天然パワーでそのまま笑ってしまえるのだろう。
けれどどこまでも真面目な筧は上手く話題変換をすることも、簡単に笑い飛ばすこともできない。
どうしようかと悩み始めた時、棗が笑っているのに気がついた。
馬鹿にしたりからかおうとしている笑みではなく、楽しそうなーーーまさしく笑顔だ。


<かけいくん、かわいい>


少し丸い文字が筧の瞳に飛び込み、目を丸くさせる。
書いた本人は無邪気な笑みを見せていて、筧と目が合うとクスクスと笑い出した。
今まで言われたことの無かった"かわいい"という言葉に筧は動揺しているが、それを無理やり押し込める。
棗が笑ってくれているのなら、それが嬉しい。
それに彼女は人の失敗を笑ったりするようなタイプではない。
ただ純粋にーーーどこがとは自分ではわからないが、筧のことを本当に"かわいい"と感じて笑っているのだろう。
筧は短い付き合いの中でも棗のことをちゃんとわかっていたし、知ろうとしていた。
だからこそこの笑顔が純粋な喜びや楽しさといったプラスの感情からきている笑顔だとわかっていたのだ。
棗の言葉を少し言及してみたくなる気持ちもあったが、棗がボードに文字を書き始めたことでそれをやめた。


<静電気防止グッズって本当に効果あるかなぁ?>

「使ってないのか?」

<うん…でも今年の静電気、ひどいからちょっと考えてるの>

「買い、に行くか?…一緒に」


筧の小さな声を棗は聞き逃さなかった。
パッと顔を上げると瞳をキラキラと輝かせて、本当?本当?と声も無く聞いている。
目は口ほどに物を言う、とはまさにこのことだろう。


「最近はブレスレットとかアクセサリーもあるらしい。…見に行ってみるか」


筧の提案に棗はボード専用のペンをぎゅっと握りしめながら何度も大きくうなずいた。
嬉しそうに笑顔をきらめかせる棗に筧の心は踊り、楽しそうな笑顔を見る度に自分まで嬉しくなる。
しあわせの魔法を惜しげも無く使ってくれる棗に笑いかけてから、隣を歩き始めた。







>静電気がひどいと、手だってつなげない
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