アイシールド21夢

□救いの言葉
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「棗」


呼べば腕の力を強くする棗。
ムサシは昔から、何か嫌なことがあると今のように抱きついてきたな、と思い返す。


「何かあったか?」


ムサシが静かに問えば、棗は彼の胸に置かれた頭を振って強く否定した。
だが様子が何処かおかしい。
アメリカがそんなに嫌だったのかと問おうとして、棗の指先が冷えていることに気が付いた。
彼女の親が大喧嘩した日、ムサシの家に遊びに来た棗は冷えた手を握りしめて泣くのを堪えていたーーー。


「棗、」


冷えた指先。
その指はきっと微かに震えているのだろう。


「大丈夫だ、棗」


ムサシは棗の事情を全く知らなかった。
声が出なくなったことも、それが理由で大好きな父親と離れて日本に帰ってきたことも知らない。
けれど10数年、隣にいた棗のことを誰よりも知っていたのだ。


「棗、大丈夫だ。俺も、ヒル魔も、栗田も姉崎もアメフト部のみんなもいる。
 もう、平気だ」


語りかけるように低く囁く声は、棗の心に染みいっていく。
何度も何度も頭を撫でる、ムサシの大きな手。
飛びついても揺らぎもしなかった大きな体。
彼が大丈夫だと言ってくれれば、それはもう"大丈夫になる"。
どれだけ周りや自分がダメだと思っても、棗にとってムサシの言葉が一番なのだ。


「棗」


いつの間にか太い両腕で棗を丸ごと包んでくれているムサシ。
身体を預けても心を預けても、揺らがない彼にどれだけ救われてきただろうか。


「(タケ兄…)」


今は声に出して呼ぶことは出来ない、大切な名前。
声が出るようになったら、一番に彼の名前を呼ぼうと決め、棗はゆっくりと目を閉じた。









>…あれだけいちゃついておいて付き合ってねえっておかしくねえか?  …だよなあ?
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