□試練
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幸村から無理矢理もぎ取った休みは午前中のみ。
どうせ午後は関係ないのだから、とも思ったが声の主と打ち解けるには短い時間過ぎる。
終わる時刻はかなりぎりぎりであり、立ち去る時間までにある余裕は10分もないほどである。
けれどどうあっても声の主と知り合うつもりでいる仁王は、気合い充分でコンサートホールに足を向けた。

なるべく舞台に近い前の方、しかも視線が集まりやすいだろう指揮者から少しずれた位置に席を陣取ると、仁王はパンフレットを見た。
順位を付けるわけではないただの発表会なので、一校が歌える歌は多くて4曲。
順番を見れば目当ての春間中は7番目で、一番最後だった。
時間がぎりぎりの中、最後の発表だと間に合うかはわからない。
それに眉を寄せようとした時、そのひとつ前に印刷された学校名に目を剥いた。


「…立海付属中」


その文字を見てあからさまに顔をしかめた仁王。
面倒なことになるかもしれない、という思いから席を立とうとしたが、パンフレットの注意書きに座り直した。
  各校発表後には休憩時間を挟みますが、入れ替わりのための時間とさせていただきます。
  基本的には途中退出や途中入場はできません。発表者の集中力を高めるための処置ですのでご了承ください。
簡単に言えば席に着けば午前の部が終わるまでそのままでいろ、ということである。
見渡せば入り口には係員が立っている。
どこかで時間をつぶし途中で入って春間中だけを聴く、ということができる雰囲気ではない。
私立公立混ざったコンクールであるためか、そうしなければ客の数があからさまに変わってしまうのだろう。
そして途中退席などされれば出演者に不快感を与える。
それを見越しての注意書きだったようだ。
仁王はため息をつきそうになる自分をどうにか抑えると、とりあえずトイレだけを済ませて席に深く座った。
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