□支え
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「ね、あの銀色の髪の人、まだいるかなぁ?」

「銀色の…髪の人?なぁに、それっ?」


控え室を片付け、廊下を歩いていると後輩たちが盛り上がり始めていた。
聞いていると先ほどの客である銀髪の男の話らしい。
だが呼び方がどこか聞き覚えのあるテンポだったため振り返ると、後輩は楽しそうにケラケラと笑った。


「某演劇少女漫画の真似ですよ。ほら、薔薇をくれる素敵な人」

「あぁ…。そんなノリなの?」

「だってぇ…颯爽として格好良かったじゃないですか」

「颯爽…ねぇ」


棗は同じ3年の友人と顔を見合わせて笑い合う。
颯爽という言葉がどこか似合わない気がしているのは自分たちふたりだけのようだ。
くだらない話を続けながらゲートに近づくと、そこにはスーツを着こなした男の人が完璧なポージングで座っていた。
見覚えのあるその後ろ姿に棗は驚き、彼の名前を呼んだ。


「榊先生!」


呼ばれた榊は振り返る角度すら計算しているように格好良く彼女を見た。
そして淡い笑みを浮かべると立ち上がって棗を待つ。
棗は小走りになりながら彼の元へと向かう。


「お疲れ様だった。素晴らしいコンサートだった」

「ありがとうございます。そういっていただけると本当に嬉しいです」

「ソロも伸びやかで美しかった。さすが、自慢の教え子だ」


榊は低いテノールで囁くようにそう言って、棗の頭を撫でた。
棗は榊に認めてもらえたのが心底嬉しいらしく可愛らしく頬を染め上げて笑う。
どこか甘い空気の流れているその空間に棗の友人はため息をついた。
純粋すぎる棗のせいでいかがわしくは見えないが、師弟愛というには愛情がこもりすぎているようにも見える。
だが榊は棗の、声楽科に進学する、という決意を聞いて先ほど以上に柔らかい表情を浮かべた。
まるで娘のを甘やかす父親のよう。
そこまで考えて友人は、それならいいのか、と息をつく。
あのふたりは音楽を心底愛しているのだ。
だからこそ才能をのばすためにできるだけの努力をしているのだーーー。
それを思って苦笑すると、彼女は後輩たちに振り返って現地解散のかけ声をかけた。






>また…あの銀色の髪の人のために、歌えたら

某演劇少女漫画のマネ…ガラスの仮面より、紫の薔薇の人
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