アイシールド21夢

□香る日
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<唇が荒れちゃったんです。スティックのリップだと塗るのも痛くて…>

「それでジェルか」

<まもりさんにオススメを聞いたらこれが良いよーって>

「…甘ったるい匂いだがな」

<やっぱりですか?ちょっと匂いは気になりますけど、持ちがいいんです>


笑う、その唇が光を集めている。
鮮やかな赤にリップのせいで濡れた質感が出て、艶めかしい。
今なら柔らかく、あのチェリーの匂いがするのだろう。
例えばここで唇を重ねれば、俺の唇からもその甘い匂いが香るのか?

唇を僅かにはみ出したリップを指で拭ってみせれば、キョトンとした顔が返ってくる。
子どものように純粋な顔をしておきながら、濡れた唇だけが女の色を持っていた。
大きな黒目は疑うことを知らず、まっすぐに俺を見て。
少しは危機感を持て、と怒鳴ったところでこいつは変わらないだろう。
いつか面倒くさいヤロー共に目を付けられそうで、想像するだけでも苛ついた。

苛つく理由はシンプルで、きっと俺はこいつのことを。


「…こけて、唇砂まみれにすんじゃねぇぞ」


リップを放り投げると、小さいそれを小さな手でどうにかこうにかキャッチする。
少し拗ねたように唇を突き出す仕草を他の奴らに見せたくなくて、頭を撫でる振りをして少し俯かせた。
俺がそうした理由が欠片もわかっていないだろう糞小動物は、俺がグシャグシャにした髪を手櫛で直すとしませんよ、と笑った。
いつかこの唇から、俺の名前が呼ばれたら…、なんてあほらしいこと思って。
けれど声が出るようになるまでずっと傍にいればいいのだと一瞬で計算した俺は、
その計画を狂わせないために、もう一度糞小動物の頭を撫でた。






>冷たくなってきた空気にその甘さはよく香って、俺を惑わせる。
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